企業価値を最大化するためのCRE戦略(企業不動産戦略)

耐震補強?建て替え?地震リスクとどう向き合うべきか

2016.5.10

2011年3月の東日本大震災から5年、携帯の緊急地震速報の音を聞くとあの時の恐怖が今も蘇りますが、世の中はいつもの平穏を取り戻したように感じます。しかし、首都直下型地震の可能性がある今、企業はそのリスクに対して経営戦略的観点から綿密な検討が必要です。
とりわけ現在所有している自社ビルが昭和56年(1981年)以前のいわゆる旧耐震基準の場合、耐震補強をすべきか否か、建て替えを決断するかは重大な経営判断になります。そこで、今回は企業不動産の耐震補強について、財務戦略面を中心に整理していきます。

もくじ

耐震補強?建て替え?地震リスクとどう向き合うべきか

[1] 耐震補強をすべきか否か

建替えた場合10億円、延床面積1,500坪の旧耐震ビル(PML60%)を所有しているとします。まず、平均耐震改修費用を20万/坪と仮定すると、耐震補強で約3億円のキャッシュアウトが発生します。それに対し、無補強で地震が起きた場合、PML60%と仮定すると、修復に6億円のキャッシュが必要です。その上、そこには従業員を中心とした人的被害、事業継続上のリスクも伴いますので、財務上のリスクは耐震補強を実施したほうが小さくなると言えます。
また、建物が修復できても、その後、多額の減価償却費で収益の圧迫が想定され、除却時の残存簿価も大きくなることから特に最終年度の収支に大きな影響を与えることになります。したがって、耐震補強することなく所有ビルを保有する場合はその損益に耐えうる十分な資産、内部留保といった備えが必須です。

[2] 耐震補強か建て替えか

耐震補強で約3億円、建替えに10億円となると、事業全体で自社ビルにどこまで投資すべきなのかという経営判断になります。建て替えには多額の資金が必要になり、なかなか踏み出せないのが現実です。また、建替えの場合、旧建物に解体・除却等に係る特別損失や仮移転先への移転・賃借等に係る経費(販売費及び一般管理費)も大きな負担になります。しかし、建て替えには耐震化以外のメリットもあり、子細な検討が必要です。例えば、容積を増やしビルの一部を賃貸することで本業以外の安定した収益を得られることやIT環境を中心としたビルの機能性の向上で生産効率アップ、従業員のモチベーションアップも期待できます。さらに、非常用電源の確保、従業員の安全確保等BCPにも対応でき、CSR経営の観点からもプラスです。
一方、耐震補強のみであれば、建替え費用もかからず仮移転も不要です。しかし、老朽化したビルの場合、継続使用すると耐震補強の他にも多額の修繕・改修費用が発生することに注意が必要です。
前述のとおり、それぞれメリットとデメリットがあります。既存建物の想定建替え年数を30年から50年と想定した上で、中長期の経営課題として取組むべきでしょう。

[3] 売却して賃借という選択も

賃借のメリットは人員の増減に柔軟な点であり、業容拡大による人員増やモバイルワーク普及に伴うワークプレイス改革などに対応できます。また、賃借にすればファシリティコストを抑えられるだけでなく、有利子負債削減や総資産利益率(ROA)向上など企業の安定性を示す貸借対照表(BS)の向上も可能です。損益計算書(PL)を重視するのであれば保有というように、CRE戦略は事業の方向性や財務戦略と密接な関係があり、将来的な要素を加味して検討されるべきです。
「借りる」と「買う」イマドキどっちがお得?

TOPICS

耐震診断

[1] 耐震診断が必要な建物とは?

①昭和56年(1981年)5月31日以前に建築確認済証を受けた建物
※竣工年月日で新耐震か旧耐震を判断せず、確認済証または検査済証に記載される確認済証交付年月日の日付で判断します

②新耐震基準で建てられた建物でも劣化が懸念される場合(推奨レベル)

[2] なぜ耐震診断が必要になった?

①平成7年(1995) 『建築物の耐震化改修の促進に関する法律』
地震に関する建物の安全性向上を目指し、旧耐震建物を新耐震基準と同等以上の耐震性能を確保するため、耐震診断や改修を努力義務に

②平成17年(2005) 『改正耐震改修促進法』(1回目)

③平成25年(2013) 『改正耐震改修促進法』(2回目)
旧耐震の大規模建物(百貨店・ホテル等)、東京都では緊急輸送道路沿いの建物は、耐震診断が義務化され平成27年末(2015年12月)までに報告が必要に

[3] 診断の手法は?

  • ・目的:地震に対する既存の建物の強度や安全性、被害の大きさなどを判定
  • ・何を見るか:建物の形状、骨組、柱や壁の数・配置、地盤、経年劣化など
  • ・診断のレベル:簡易診断から詳細診断まで3段階あり

[4] 耐震診断書の何を見る?

・構造耐震指標であるIS値(Seismic Index of Structure)を見ます。IS値とは、地震に対する建物の強度、靱性(じんせい:変形能力、粘り強さ)を考慮し、建物の階毎に算出します。IS値0.6が耐震性を評価する上での判断ラインです。すなわち、0.6以上であれば、大地震の際、倒壊する危険性が低く、0.6を下回れば、大きな被害を受ける可能性が高くなるため、耐震補強が必要とされます。

このページで登場する「CRE」用語

首都直下型地震
東京湾北部を震源として発生すると推測されるマグニチュード7.3クラスの直下型地震。
首都直下地震が起きたら?
PML(Probable Maximum Loss)
地震による予想最大損失額。もともと火災保険の保険料などを考える資料としてアメリカで生まれた考え方で被害想定額に発生確率を加味した考え方。地震の分野では、最大想定地震(=475年に一度の周期で起こると予想される最大規模の地震)に遭遇した場合の損害率を計算、リスクの想定をします。
★計算例
現時点で新築すると100億円かかる建物が、その所在する時点で予想される最大規模の地震が起きたとき、その建物に必要な費用が最大10億円かかるとすると、その建物の地震PMLは10%(最大損失額÷100億円)となります。
※通常、新耐震は10%以下、旧耐震は20%を超えることが多い
BCP(事業継続計画)
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。
BCPって常識?
CSR(企業の社会的責任)
企業は自らの利益の追求だけでなく、社会に対して責任を果たしあらゆる利害関係者の利益を実現する必要があるという考え方。納税や法令遵守のみならず、コーポレートガバナンスの向上、環境への取組みなど企業不動産との付き合い方を考える上で重要な概念。
CREマネジメント戦略
モバイルワーク
移動中や外出先など、オフィス以外の場所で仕事ができるIT環境・仕組み
ザイマックスのモバイルワークオフィス
ROA(総資本利益率)
純利益÷総資産(%)で表す。会社が保有している資産をどれだけ効率的に運用できているかを示す指標。
国際財務報告基準(IFRS)について企業の保有不動産の側面から解説

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