企業価値を最大化するためのCRE戦略(企業不動産戦略)

どうする老朽化ビル。
建て替え?売却?・・・等価交換!

2015.10.13

築年が経過する自社ビルを所有する企業にとって、いつかは直面する問題として「建て替え」があります。建て替えと言っても莫大な費用投資が必要となるため、簡単にはいかないこともあるでしょう。また、自社ビルを売却して賃貸へ移転するという手段もありますが、創業当時から代々受け継いできた土地を売却することに抵抗が…といったケースもあるかと思います。そんな時に「等価交換」という方法はいかがでしょうか。
「等価交換」とは、その名の通り「同じ価値の物を交換する」ということです。土地をデベロッパーに提供する代わりに、そこに建築された建物のうち「提供した土地の価値に見合った分」を共有または区分所有することができる方法です。建物の建築資金はデベロッパーが負担するので、土地所有者は自己資金がなくても建て替えをすることができるのです。

もくじ

どうする老朽化ビル。
建て替え?売却?・・・等価交換!

[1]老朽化ビルの抱える問題

ビルの建て替えや売却の代表的な理由となるのが「建物の老朽化」です。まずはじめに、老朽化したビルを所有しつづけることのリスクについて整理したいと思います。

①安全上の問題

東日本大震災以降、BCP(事業継続計画)は企業のオフィス選定において欠かせない観点となりました。もし震災で倒壊した場合には損害賠償や訴訟問題など様々な責任を負うことになるでしょう。危機管理や防災対策は早急に対応すべき問題です。

②維持管理費の問題

維持管理(メンテナンス)費用は築年の経過に比例して増大する傾向にあります。特に築年が20年を経過したあたりからその比率は急激に上がっていきます。改修費用が用意できず修繕されないまま放置されれば使用者の不便はもちろんのこと、建物の劣化も進みます。また、ビルの一部を外部貸ししている場合には入居者の減少、空室増加にもつながりかねません。

③売却先(買い手)探しの難しさ

耐震強度の低い物件には買い主が現れにくいというのが現実です。特に、旧耐震物件は法的問題がなくても私募ファンドなどからは評価が低く投資対象と見なされないという向きさえあります。

修繕を重ねていったとしても耐用年数の問題などにより、いずれは大きな決断が必要になります。その際の代表的な対応例としてまず思い浮かぶのは
「建て替え(自立建設方法)」
「売却・移転」
といった方法ではないでしょうか。しかしこの両者にもそれぞれメリット・デメリットがあり、検討が進まないこともあるかと思います。そんな時の第三の手段として
「等価交換方式」
という選択肢も検討してみてはいかがでしょうか。

[2]対応策の種類とメリット・デメリット

(1)建て替え

老朽化ビルの対応策としてすぐに思い浮かぶのは「建て替え(自力建設方式)」でしょう。2015年ザイマックス総研調べでは築30年を境に建て替えを検討し始めるオーナーが多いようです。

<メリット>
  • ■土地所有者に事業の決定権がある
  • ■事業からの収益を全て享受できる(ビル事業からの収入、土地の将来の値上がり益)
  • ■金利や減価償却費を控除することにより節税が可能
<デメリット>
  • ■資金調達の問題
    改修に比べて巨額の建設資金が必要となります。また、事業のリスクは全て土地所有者のリスクとなります。ただし、サブリース(一括借り上げ、家賃保証制度)によって事業の安定化やリスク軽減を図ることはできるので、建築後の運営プランも含めて検討する必要があるでしょう。
  • ■テナント立退き交渉リスク
    自社ビルの一部スペースを賃貸に出している場合、テナントの立ち退き交渉に時間を要す可能性があります。また、立退きには正当事由が必要ですが老朽化は正当事由にあたらないため、相応の立退き料を考慮しておかなければなりません。
  • ■建物竣工リスク
    建築期間中は許認可申請や近隣問題、工事のトラブル、自然災害発生など様々なリスクを抱え続けることになります。昨今では、大震災や東京オリンピック誘致成功の影響から工事にかかる人件費や材料費の高騰が顕著で、事業費の増加から事業自体が一旦停止にいたるケースも少なくありません。

(2)売却・移転

自社ビルを売却することはネガティブにも思えますが、近年ではBCP実行や業務効率化、CREコスト削減のために、大企業であっても本社ビルを売却して賃貸オフィスに移転する事例が増えています。

※詳細はTOPICSをご覧ください。

<メリット>
  • ■防災体制レベルが高いビルへ移転することによってBCP(事業継続計画)が強化できる。
  • ■拠点統合による業務効率化、社内コミュニケーションの活発化、グループ企業連携強化、使用面積の効率化を図るチャンスになる。
  • ■自社ビルの維持管理費が不要になる。
  • ■売却によりまとまったキャッシュが手に入る
  • ■不動産にまつわる税負担がなくなる
<デメリット>
  • ■オフィスを賃貸することによる賃料の発生。
  • ■自社ビルに比べて建物利用の自由度が制限される。
  • ■創業の地やオーナーのこだわりなど、理屈外の理由で手放しづらいことがある。
  • ■手放してしまうと再度手に入れるのが難しい。
  • ■売却に伴う諸費用が発生する。
    仲介手数料や登記費用など売買契約にかかわる諸費用がかかります。また、売却利益が発生すると譲渡所得税がかかることもあります。

(3)等価交換

等価交換とは、土地所有者が土地をデベロッパーに譲渡し、デベロッパーがその土地に建築した建物を土地所有者とデベロッパーそれぞれが出資割合に応じて取得する方式です。土地所有者とデベロッパーとで、土地と建物の一部を等価で売買するので「等価交換」と呼ばれています。
デベロッパーが建設資金を負担するので、土地所有者は自己資金を用意することなく建物を建築できるというメリットがあります。建築資金の用意が困難だが建て替えをしたい、有効活用できる土地を所有している、という方におすすめです。

<メリット>
  • ■資金がなくても建物が建設できる
    「自社ビルが老朽化してきており新築したいが、多額の借入をするのは難しい」というケースは多々あります。一般的に土地の価格>建物の価格のため、建築費用の持ち出しがなく、建て替えをすることが可能です。
  • ■自社使用スペースを確保しながらの土地活用
    「業務縮小や人員減少によって、自社ビルに余剰スペースが生まれている」というケースもあるでしょう。このような場合に等価交換は有用です。土地と引き換えに取得した建物を、一部は自社の業務スペースとして使い、残りの区画を賃貸オフィスにすることで収入源にすることができます。
  • ■譲渡税の優遇措置あり
    単に土地を売却して建物を建てる場合、土地譲渡益に対して譲渡所得税が発生するので建設資金はおのずと少なくなります。しかし、等価交換の場合、土地の売買と建物の売買関係が成立するため、買換え特例(立体買換えの特例)が適用される可能性があり、その場合には譲渡税を将来に繰り延べることができます。
<デメリット>
  • ■土地・建物がデベロッパーとの共有(または区分)所有になる
    出資割合に応じた区分所有権は保持できるものの、土地の所有権は共有となります。土地から離れるわけではなくても抵抗を感じる方も少なくないのでよく検討を進める必要があるでしょう。
  • ■デベロッパーの開発利益分がデベロッパー持分に上乗せされる
    建築資金がなくても新築ビルを持てるのが等価交換の大きなメリットです。更に、土地所有者の不動産知識が浅くとも共同事業者であるデベロッパーがいるので煩雑な許認可申請や事務作業の手間も軽減されます。しかしその分、主導権はデベロッパーが握ることになるので、リスク回避策として専門家を間に入れることも一手です。
  • ■減価償却は自立建設方法に比べてメリットが出にくい

どの手段をとるのが最適なのかは企業ごとの事情や不動産の状況によって異なります。また、税制上で大きな違いが出るケースもありますので、慎重な検討が必要です。専門家に相談し、より良い自社ビルの運営、CREマネジメントを進めていきましょう。

TOPICS

近年話題となった大企業の本社ビル売却トピック

大手企業が自社所有の本社ビルを売却して、都心の大型ビルに賃貸で移転しているケースが見受けられます。これは本社ビルの老朽化によるBCP対策、複数拠点を統合した業務効率化、1フロア大型化による使用面積効率化(CRE費用削減)などを目的にしていると考えられます。最近ニュースなどで大きく取り上げられ話題となった、大手企業による、自社所有の本社ビル売却事例を見ていきましょう。

キリンの本社ビル売却及び移転

ビール業界大手のキリンホールディングスは、賃貸オフィスビル「中野セントラルパーク サウス」が新築されるタイミングで移転しました。キリンの17グループ企業の本社機能を統合し、効率的な組織運営やグループ会社間の連携強化、コスト最適化、BCP(事業継続計画)対応を目的として、「持たざる経営」という方針をとったCRE戦略といえるでしょう。
中央区新川の旧本社は、1995年(平成7年)に新築した肝入りの自社ビル(玄関の自動ドア、ドアハンドル、水栓といった金具類は、その多くがこのビルのための特注ものだったそうです)であったのに、10年も経たずに売却した、会社の並々ならぬ決意表明でした。
本社ビルと別館を、それぞれ東京建物とシュテルン中央に売却し、原宿にあった旧本社ビルも同時に売却しました。その売却総額は200億円ともいわれています。売却後の新川本社ビル跡地には30階建てのタワーマンションが建設中です。

中野セントラルパーク サウスは、1フロア約1500坪という日本最大級の巨大な事務所階、ハイスペックな設備を整え、BCP対策に重要な防災面のグレードも抜群です。自社ビルで実現しようとすると初期投資で非常に莫大な費用がかかってしまうため、賃貸として借りられるのは、かなりお得な条件として目に映る企業は多いのではないでしょうか。

アキレスの本社ビルおよび本社別館の本社機能統合移転

シューズなどで知られる化学メーカーのアキレスは2015年、新宿区北新宿2丁目の新宿フロントタワーに本社を移転。分散するオフィスを集約して業務効率の向上と、事業継続計画(BCP)を強化するために移転を決めました。同社の「固定資産の譲渡及び特別利益の計上に関するお知らせ」によれば、旧本社および旧本社別館の売却も行われました。

シャープの本社ビル売却

大手総合家電メーカーのシャープ(SHARP)は、主力の液晶事業の不振によって経営が悪化、構造改革の一環として大阪市阿倍野区にある本社ビルとその向かいにある田辺ビルを売却しました。2棟とも大阪市南部、市営地下鉄御堂筋線の西田辺駅に近く、天王寺から5分、梅田からでも20分とアクセス抜群の立地。
敷地面積約1万3千平方メートルの本社ビル(1956年完成の地上5階建て)はニトリホールディングスへ、敷地面積約1万1千平方メートルの田辺ビル(営業部門、液晶事業部門などが入る地上5階建て)は不動産大手のNTT都市開発へ合計188億1300万円で売却されました。これによりシャープは諸経費を差し引いた148億3300万円を売却譲渡益として見込んでいます。

ニトリホールディングスは取得した旧本社ビルに商業施設建設を、NTT都市開発は田辺ビルをマンション用地にする計画とみられています。シャープは2017年頃までは賃料を払って入居を続けた後、太陽電池を生産する堺工場(堺市)に本社を移転することが決まっています。(2016年5月現在)

パナソニックの本社ビル売却

シャープと同様に大手電機8社の一つであるパナソニックも、2013年に自社ビル「パナソニック東京汐留ビル」を507億5000万円で売却。財務改善計画の一環で、資産売却による手元資金の確保が目的とみられています。同ビルは東京都港区の汐留駅直結で、地上24階地下4階建て、延べ床面積は4万7308平方メートル。2003年に旧パナソニック電工の東京本社として建設され、現在、約2000人が働いていますが売却後も10年間の賃貸契約を結んで入居を続けています。他にも、東京都港区の御成門駅前にある旧東京支社の「東京パナソニックビル」の2号館と3号館の計2棟も合計100億円弱で売却しています。

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