企業価値を最大化するためのCRE戦略(企業不動産戦略)

事業用定期借地権の活用

2015.10.6

事業用定期借地権とは、「事業用不動産」だけに適用される定期借地権です。遊休資産を所有する企業にとって、この事業用定期借地契約を上手に活用し、保有している低・未利用土地の稼働率や収益性を上げることは、CRE戦略(企業不動産戦略)上、大事なポイントとなります。

この事業用定期借地権(事業用借地権)を活用することで、土地所有者は、「物件投資や借入金返済等の事業リスクの回避」「所有地の賃貸期限の設定(確実な土地返還)」などといった、低リスクでの土地活用が可能になりました。平成20年の改正によって、「10年以上20年以下」と短く制限されていた契約期限が延長されたことに加えて、土地返還の時点で物件を取り壊すことを前提としない「建物譲渡特約付借地権」も併用できるため、事業用借地権制度はロードサイドショップやガソリンスタンドだけに止まらず、その活用フィールドを大きく広げています。
少子化や高齢化社会が急速に進む中、土地の有効利用についてのアプローチにも、新しい工夫が求められている現在。宿泊施設や商業施設、高齢者向け施設等、先進的な土地活用の事例にも注目していきましょう。

もくじ

事業用定期借地権の活用

[1]事業用定期借地権とは(概要)

1992年(平成4年)に施行された借地借家法に基づいて創設された「定期借地権制度」には、大きく分けて、「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」の3種類から構成されています。
このうち、特にCRE戦略に深く関連する事業用借地権とは、住宅など居住用途以外の事業目的限定で土地を賃貸借する際に適用される定期借地権です。事業用定期借地権の設定期間は、従来は「10年以上20年以下」とされていたところ、法改正がなされ、2008年(平成20年)1月1日からは、「10年以上30年未満」と「30年以上50年未満」の2タイプに設定期間が区分されました。
実際のニーズに即したこの制度改正により、今後、事業用定期借地権を活用した土地利用は、さらに多様な広がりを見せていくものと期待されています。

[2]一般定期借地権と事業用定期借地権の相違点

(1)一般定期借地権

まず、原則形態である一般定期借地権について見ていきます。
これは借地の期間を50年以上とすることを条件とし、以下の3つの特約を公正証書などの書面で契約をすることで成立します。すなわち、

  • 1.契約の更新をしない
  • 2.建物再築(建替)による期間の延長をしない
  • 3.期間満了による建物の買取請求をしない

という3つの特約です。

旧法借地権のもとでは、この3つの特約はいずれも借地人に不利な契約とされており、借地法上は無効とされていました。しかし、新借地借家法においては、定期借地権に限りこの特約が有効とされました。これら3つの特約によって、借地権は更新されることなく終了し、土地は地主に更地にして返還されることになります。

(2)事業用定期借地権

一般定期借地権が期間50年以上という長期間の契約であるのに対し、もっぱら事業の用に供する建物(居住用を除く)の所有を目的とする場合には、存続期間が「10年以上50年未満」の定期借地権を設定することができます。この場合、一般定期借地権と同様、契約の更新、建物再築による期間の延長、期間満了における建物買取請求権が適用されない、という内容のものとすることができます。

厳密に言うと、事業用定期借地権を規定する「借地借家法第23条」は第1項と第2項で規定されていますが、第2項は「存続期間を10年以上30年未満として借地権を設定する場合は、定期借地権の要件が自動的に適用される」とするものです。すなわち、契約書において、特に規定をしなくても、上述の3つの特約を規定したのと同じ効果が得られます。

これに対し、第1項は、「存続期間を30年以上50年未満として借地権を設定する場合においては、一般定期借地権と同様に3つの特約を定めることができる」としていますので、契約書に特約を規定しなければなりません。契約書を作成する上では、この相違点に気をつけることが必要です。

※条文については、TOPICS「借地借家法第23条」を参照下さい。

[事業用定期借地権活用のメリット(地主にとってのメリット)]
1.賃貸期限の設定

借地権の賃貸期限を定められるようになったことから、確実に土地を返してもらえます。

2.固定資産税の負担が軽減

借り手が見つかれば、土地を手放すことなく、長年にわたり地代収入が確保できるので、固定資産税の重荷に耐えられます。

3.借入の必要がなく低リスク事業

従来は銀行から融資を受けて建物を建てるなど、借入金の調達が必要でしたが、定期借地事業では、あくまでも土地を貸すだけなので、基本的には無借金事業になります。事業資金(宅地造成費用など)が必要な場合には、契約時の一時金を充てて賄うことができます。

4.地代収入による長期安定経営

保証金とともに、契約期間中、安定的・確定的な地代収入を得ることができます。貸家経営のような中途解約(入退去)や空室問題が比較的少ないのも特徴です。

5.必ずプラスとなる事業収支

経費としての支出は、固定資産税等と借地契約の管理費等。借入れによる返済がないため、事業収支面では必ず黒字になります。

6.相続税対策

貸している土地は、相続税評価において「貸宅地」とみなされ、「貸宅地」であると地主が自由に処分できなくなるため、評価額が相当に減額されます(更地状態に比べ30~40%ほど)。その分、相続税も安い範囲で収まります。

[事業用定期借地権の改正]

事業用定期借地権は、定期借地権が創設された1992年(平成4年)当初は、期間は「10年以上20年以下」と、短期間での活用が想定されていましたが、2008年(平成20年)年1月に「10年以上50年未満」に改正されました。

もともと、定期借地権の立法化の過程で事業用定期借地権の活用が想定されていたのは、ロードサイド店舗が主でした。コンビニ(コンビニエンスストア)、スーパーマーケット、ファミリーレストラン、ガソリンスタンド、パチンコ店、ゲームセンター、レンタルビデオショップ、大型書店、紳士服チェーン店舗など、建築コストもあまり掛けない軽微な店舗構成から、比較的短い事業期間で投下資本を回収する事業者の店舗展開に活用されており、これらの事業期間は短いため、上限が20年になったと言われています。
しかし、実際にはショッピングモール等の大規模なものが数多く出現し、当初想定した活用形態からは大きく変わっていきました。

また、鉄筋コンクリート造などの堅牢な建物の実際の償却期間と、税制・税法上の建物償却期間との不整合も以前より問題視されており、期間の延長を望む声は多く聞かれていたのですが、そういった問題解消への要望にも応えた改正といえます。建設投資も長期的に回収できるため、倉庫や介護・福祉施設、病院等医療提供施設、事務所目的などといった、まさに「事業」において利用しやすい制度になっています。

平成20年改正によって、事業用使途で利用する場合は、その期間に応じて、

  • ・10年以上50年未満では、「事業用定期借地権」
  • ・50年以上では、「一般定期借地権」

と使い分けられるようになりました。したがって、実質的には事業用使途では、期間の上限が撤廃されたことになります。

さらに、事業用定期借地権で30年以上の契約期間を定める場合には、借地借家法24条の「建物譲渡特約付借地権」を併用することもできます。そのため、建物収去を前提としない方式も可能となりましたので、活用のバリエーションは大きく広がったといえます。もっとも、併用する場合には、契約は必ず公正証書でしなければならないので、注意が必要です。

出典:国土交通省HP/定期借地事業の特徴

[3]事業用定期借地権の活用事例

民間企業がCRE戦略の一環で、事業用定期借地権の制度を活用した好例について、ご紹介していきます。

引用元:国土交通省HP/土地総合情報ライブラリー

[MORUE 中島(モルエ中島)/北海道室蘭市]

2007年4月に地域の新たなランドマークとしてグランドオープンを迎えたのが、この大型複合ショッピングモール「MORUE中島」です。CRE戦略推進事業のモデルケースとして、郊外化・空洞化が進んでいた中心市街地の再生と活性化・魅力化に大きく貢献しており、周辺商店街を含めた地区一帯の来街者も増加。街づくりの活動としても評価を受け、2008年(平成20年)には、「土地活用モデル大賞〈都市みらい推進機構理事長賞〉」(国土交通省後援)を受賞しています。

・事例の詳細について

新日本製鐵株式会社室蘭製鉄所が所有するグラウンド用地及び隣接する社宅アパートも含めた関連施設等を有効活用するために、室蘭市中島本町にある胆振西部の土地活用が検討され、株式会社新日鉄都市開発と事業用定期借地契約を締結。新日鉄都市開発が建物を建設し、建物所有者・施設運営者の立場から各テナントにサブリース(定期借家契約/モール棟6年、カテゴリー棟20年)。また、新日鉄都市開発はSC運営のアプローチとして、テナント会(店長会)や地元団体に対して企画立案・調整業務を行ない、両者が地域イベント等の協賛を通じて、良好な協力関係を築いていけるよう働きかけています。ちなみに、地元団体には、地元商店街や各種団体、教育機関(大学・小中高校など)、行政(広報活動協力など)等が含まれます。さらに、新日鉄都市開発は、株式会社日鉄コミュニティと施設管理業務委託契約も結んでいます。

<DATA>
区分:民間遊休地開発(平屋建6棟)
ロケーション:中心市街地
用途:大規模ショッピングセンター
定期借地権期間:事業用20年
土地所有者:新日本製鉄(株)
賃借人:(株)新日鉄都市開発
賃料支払形式:非公開

参照:(財)都市みらい推進機構HP(土地活用モデル大賞)
国土交通省HP/「モルエ中島」事例紹介

[フレスポ八潮/埼玉県八潮市]

「フレスポ八潮」は、TXつくばエクスプレス(常磐新線)の八潮駅前で行われた商業開発プロジェクトによって、2006年4月に開業した大型複合商業施設です。都心まで17分程度と便利な立地で、NSC(ネバーフッド・ショッピングセンター)として、地域に根ざし隣接地と一体化した近隣型SCを目指しています。

・リース形態について

建物整備・施設運営管理・テナントリーシング・販促活動などを実施していく、事業運営主体である大手建築リース会社が、土地所有者と土地賃貸借契約を取り交わし、その敷地内に各企業の希望を加味した商業施設を建設した上で、それぞれのテナントに建物を貸与。このように、借りる側の各種ニーズに合ったハードを用意することで、物件と入居テナントのマッチングを行ない、賃料の確実な回収を促しています。

<DATA>
区分:民間+都市機構共同開発(鉄骨造5階建)
ロケーション:つくばエクスプレス八潮駅前
用途:商業
定期借地権期間:事業用20年
土地所有者:独立行政法人「都市再生機構」、民間所有者
賃借人:大和リース(株)
賃料支払形式:保証金、借地代

参照:国土交通省HP/「フレスポ八潮」事例紹介

これら以外にも、近年、「御殿場プレミアムアウトレット」や「ラゾーナ川崎」といったアウトレットモール・ショッピングモールなどに、事業用定期借地権制度が利用されるケースは、全国的にも確実に増えてきています。また、地方自治体が公有地活用に際して利用する例も多くみられます。戸建住宅やマンションなど居住用に活用されることの多い、通常の一般定期借地権の継続期間が50年以上であるのに対し、事業用定期借地権では10年以上50年未満と借地期間を短く設定でき、そのことが、ビジネスのサイクルに適した短期・中期での土地活用を促しているのでしょう。

遊休地を幹線道路沿いにお持ちの企業様など、事業用定期借地権を土地活用の有力な一手として、検討してみてはいかがでしょうか。

参考:CRE(企業不動産)戦略コラム「遊休不動産や遊休地活用はCRE戦略の重要な課題

TOPICS

借地借家法第23条

借地借家法は、建物と土地に関わる特別な賃貸借契約の規定・法律であり、ここでは、民法によって定められている賃貸借契約の原則を、現代社会の実状に合わせて修正されています。
そんな借地借家法の中で、事業用定期借地権等に関わる借地借家法23条の条文を抜粋してご紹介します。

  • 1.専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を三十年以上五十年未満として借地権を設定する場合においては、第9条及び第16条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
  • 2.専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上三十年未満として借地権を設定する場合には、第3条から第8条まで、第13条及び第18条の規定は、適用しない。
  • 3.前二項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。

出典:国土交通省HP/借地借家法の定期借地権に関連する条文

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借地権のこれまで(歴史)

(1)旧法借地制度の問題点

土地は所有しているだけで、固定資産税や都市計画税がかかります。しかも、その土地が広かったり、幹線道路に面していたりすれば、その分だけ路線価も高くなり、多額の税負担が強いられることになります。そんな未利用地(遊休土地・遊休不動産)の有効活用を検討しようにも、旧法借地制度では借主(借地人)保護の傾向が強く、地主は未利用地を安心して貸すことはできませんでした。

[旧法借地制度下における地主(貸主)が抱える問題]
・土地が返還されない

正当事由制度と法定更新制度によって借主との契約関係が半永久的に更新され、土地が返還されないことが最大の問題点です。

・資本利益(キャピタルゲイン)が借主に移転してしまう

借地権が半永久的に更新される資産的権利となっていた旧法借地制度下では、土地の値上り益の大半は、借主に帰属することになりました。そして、地主が土地の返還を求める際には、借地権の金銭的補償として、土地価格の50〜90%もの立退料を借主に支払わなければなりませんでした。戦後の地価の高騰によって、その土地から生み出される資本利益の大半が、借主に移転してしまったのです。

・地価上昇に見合う地代収入が得られない

さらに、地代収入も満足な額を請求できないという問題がありました。戦後の高度経済成長期にあって地価は急騰するも、地代の上昇が連動していかなかったのです。地主が地代の増額を求めても(地代値上げの裁判を起こしても)、借地人の権利に重きを置く習慣からか、認められることはほとんどありませんでした。

(2)定期借地権制度の創設

このように、社会・経済の実態とはアンマッチな借地・借家の関係性を改めるべきとの問題意識から、借地法・借家法の抜本的な見直しが行われることになりました。そうして、1985年(昭和60年)、借地借家法の改正問題が法制審議会(法務大臣の諮問機関)によって取り上げられることが決定し、その後、1991年(平成3年)10月に現行の借地借家法が公布。翌1992年(平成4年)8月に施行され、定期借地権制度が創設されました。
この定期借地権制度ができたことにより、定められた期間で貸した土地が必ず返還されるようになり、借地人への立退料の支払いも不要になりました。こうして、地主が安心して土地を貸せるようになり、結果、貸主と借主双方にとっても、新しい土地利用の可能性が広がったのです。

出典:国土交通省HP/借地権の変遷

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その他、事業用定期借地権活用による事例

現在、事業用定期借地権は、都市再開発や商店街の活性化、ショッピングモール開発等の幅広い分野で注目されています。ここでは、企業所有・公有地の別なく、最新の活用事例を一覧していきます。

[事業用定期借地権活用によるショッピングモール・アウトレットモール事例]

・御殿場プレミアムアウトレット

土地所有:企業
所在地:御殿場市
駐車場:4,200台
事業方式:事業用定期借地権(20年)

・佐野プレミアムアウトレット

土地所有:都市再生機構
所在地:佐野市
駐車場:3,000台
事業方式:事業用定期借地権(20年)

・グランベリーモール

土地所有:企業
所在地:町田市
駐車場:1,000台
事業方式:事業用定期借地権(20年)

・ガーデンウォーク幕張

土地所有:公有地(千葉県)
所在地:千葉市美浜区
駐車場:1,400台
事業方式:事業用定期借地権(15年)

・ラ・フェット南大沢

土地所有:公有地(東京都)
所在地:八王子市
駐車場:1,400台
事業方式:事業用定期借地権(16年)

・ラゾーナ川崎

土地所有:企業
所在地:川崎市
駐車場:2,000台
事業方式:事業用定期借地権(20年)

・ららぽーと豊洲

土地所有:企業
所在地:江東区
駐車場:2,200台
事業方式:事業用定期借地権(20年)

参照:国土交通省HP/定期借地権活用によるショッピングモール事例

※その他にも、都市再開発分野で定期借地権(一般定期借地権)が戦略的に活用される例も見られます。例えば、都営団地の再開発事業「南青山一丁目プロジェクト」(東京都港区)、郊外型の宅地再開発案件「東村山都営団地での戸建定期借地権分譲」(東京都東村山市)、中心市街地活性化事例「高松市丸亀町商店街再開発」(香川県高松市)など。このように、一般・事業用を合わせて、定期借地権の利用シーンは確実に増えてきています。

このページで登場する「CRE」用語

公正証書
公正証書とは、法律の専門家・公証人が、民法・公証人法などの法律に従って作成する高い証明力を有する公文書のこと。債務者が金銭債務の支払を怠ると、裁判所の判決等を待つことなく、直ちに強制執行手続きに移ることが可能。
公正証書には、金銭消費貸借契約公正証書、準消費貸借契約公正証書、債務弁済契約公正証書、建物賃貸借契約公正証書、土地賃貸借契約公正証書、定期借地権設定契約公正証書、事業用借地権設定契約公正証書、建物譲渡特約付借地権設定契約公正証書、不動産売買公正証書、遺産分割協議公正証書、離婚給付公正証書、死因贈与公正証書などがある。
建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは、契約期間の終了後、地主が借地人から建物を買い取ることで、借地権が消滅する借地契約のこと。借地権の存続期間は30年以上に設定。登記の必要はないが、所有権移転または所有権移転請求権の仮登記を要する。

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