企業価値を最大化するためのCRE戦略(企業不動産戦略)
環境不動産・グリーンビルディングと
CRE戦略
2015.9.30
「環境不動産」「グリーンビルディング(Green Building)」とは、人間の健康と環境への悪影響を極力排していこうという思想のもとデザインされる建築物のことで、建物のライフサイクルを通して生じる環境的な責任及び資源の効率性を考慮して建設・運用されている不動産を言います。
不動産分野に関わる環境問題としては、まず、二酸化炭素(CO2)排出量の問題が挙げられます。住宅・業務部門を合わせた建築物が排出するCO2は、日本全体におけるCO2排出量の3割を超えており、不動産のエネルギー性能の向上は、まさに現代的な命題といえるでしょう。さらに、業務部門の不動産によるCO2総排出量のうち、2割強を企業の活動拠点であるオフィスビルなどの企業不動産(CRE)が占めています。
企業の社会的責任(CSR)として、防災力と事業継続性(事業継続計画:BCP)を高めていくのはもちろん、これからは、企業不動産(CRE)が地域社会や地球に求められる環境価値の高い存在であれるか、ということが、企業価値そのものを左右する重要なファクターになっていくことでしょう。
環境性能が高く、サスティナブル(持続可能性)に資する良好なマネジメントがなされている不動産=「環境不動産」「グリーンビルディング」。今回のコラムでは、こういった「環境不動産」の昨今の動向について解説していきます。
もくじ
- [1]環境不動産、グリーンビルディングとは
- [2]日本における環境不動産の最近の動向
- (1)環境評価制度(環境ラベリング制度)の広がり
・「DBJグリーンビルディング認証」(日本政策投資銀行)
・「SMBCサステイナブルビルディング評価融資」(三井住友銀)
・「CASBEE不動産マーケット普及版」(建築環境・省エネルギー機構)
・「トップレベル事業所(優良特定地球温暖化対策事業所)認定」(東京都環境局) - (2)J-REIT、投資法人の取り組み
・J-REITの取り組み
・森ヒルズリート投資法人の取り組み
・日本プライムリアルティ投資法人の取り組み
・ケネディクス不動産投資法人の取り組み - (3)日本の投資家の動向
- (4)日本のテナントの動向
- (1)環境評価制度(環境ラベリング制度)の広がり
- [3]環境不動産に関する歴史・背景
- (1)世界と日本における環境不動産に関する動向
- (2)日本おける環境不動産に関する動向
- [4]環境配慮型不動産(グリーンビルディング)の未来
- (1)環境不動産の収益性
- (2)日本は遅れているか?
- [TOPICS]
- ・サスティナブルデベロップメントと12歳の少女「セヴァン・スズキ」
- ・トップレベル事業所等の認定実績
- ・環境評価取得事例「ザイマックス溜池山王ビル」
- ・責任投資原則(PRI)と責任不動産投資(RPI)、他

[1]環境不動産、グリーンビルディングとは
地球温暖化、酸性雨、オゾンホールなど、地球規模での環境問題がクローズアップされていく中で、限りある資源の有効活用(省エネルギー化)と経済活動を両立させ、持続可能な社会基盤を構築していくことが、現在、強く求められています。
「グリーンビルディング」あるいは、「緑の建築」とは、日本語では「持続可能な建物」「環境に優しい建物」「環境建築物」、または、「環境配慮型建物」「環境配慮型不動産」などと、様々に訳されています(このコラムでは、簡単に「環境不動産」と呼ぶこととします)。
このように、日本でも「環境不動産」に対する呼び方がひとつに定まっていないことからも分かるように、海外でも「グリーンビルディング」には他の呼び名があります。以下、列挙してみましょう。
- ・「グリーンアーキテクチャー(Green Architecture)」
- ・「ハイパフォーマンスビルディング(High Performance Building)」
- ・「サステナブルビルディング(Sustainable Building)」
- ・「ナチュラルビルディング(Natural Building)」、等
呼び方も複数あるように、世界共通の定義もまだ定まっておらず、日本においても、「環境不動産とは」といった議論は現在も続けられている状況です。その中で、「グリーンビルディング(環境不動産)とは何か」を明示している機関も少数ながらあり、その定義には以下のものがあります。
[米国環境保護局(US Environmental Protection Agency:U.S.EPA)]
「グリーンビルディングとは、サイト選定、設計、施工、運用、メンテナンス、改修、解体といった建物のライフサイクルを通して生じる環境的な責任及び資源の効率性を考慮して、構造物を建設し運用すること。この取組みは、経済性、実用性、耐久性、快適性といった元来の建築設計を展開し補完するものである。グリーンビルディングの別名は、“環境にやさしい建物(sustainable building)」、“高性能建物 (high performance building)”である」
[インドグリーンビルディング協会(Indian Green Building Council:IGBC)]
「グリーンビルディングとは、一般的な建物と比べ、エネルギー・水・天然資源使用量が少なく、廃棄物の発生量も少なく、そこに住む人々にとってより健康的な建物である」
[2]日本における環境不動産の最近の動向
(1)環境評価制度(環境ラベリング制度)の広がり
先述した米国の「LEED」や英国の「BREEAM」のような、一定の環境性能を有する不動産を評価する「環境ラベリング制度」は、政策に基づく規制や支援制度とはまた違った角度から不動産の環境配慮を促していく仕掛けとして、有効に機能しています。
これらの環境性能の評価システムは欧米が先行していますが、最近では国内でも民間が主導するものなど、種々のラベリング制度が普及してきています。そして、これらは大きく分けて、以下の3つのタイプに類型化されます。
①建物の総合的な環境性能を評価するもの
日本では「CASBEE」、海外では米国の「LEED」や英国の「BREEAM」などがこれに当たります。
②建物の省エネルギー性能に主眼を置いて評価するもの
2014年4月に、国土交通省主導で運用が開始された「建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)」がこれに該当します。
③個別の建築物ではなく、所有・運用する企業等を評価するもの
欧州の年金基金グループが中心となって創設された「グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク(GRESB)」がこれに当たります。個々の不動産ではなく、企業・運用機関といったポートフォリオ単位のベンチマークとしては、この「GRESB(グレスビー)」が事実上、唯一のものといえます。
アメリカの「LEED認証」では、取得している物件が、取得していない物件に対して、経済的な優位性(具体的には、不動産価値の上昇、運用費の削減、投資に対するリターンの改善、入居率の上昇など)を示すという調査結果が出ています。また、「GRESB」については、2014年9月現在、8兆9,000億米ドルの資金をもつ130以上の機関投資家などが運用機関のメンバーとして名を連ねており、この認証制度は、投資先の選定や投資先との対話の場(プラットフォーム)として活用されています。
出典:「CRE(企業不動産)マネジメントハンドブックJAPAN2015/環境ラベリング制度」
このように、環境に配慮していることが差別化につながり、物件の収益性を改善させたり、投資家からの評価を高めたりする例も出てきているのです。CRE戦略上においても、環境配慮に対する関心が高まっていく中、日本でも、企業不動産に関わる環境評価制度が徐々に整備されていきました。以下に、代表的なものをご紹介していきます。
[DBJグリーンビルディング認証]
金融機関が作った環境認証制度は現在2つありますが、その内のひとつが、2011年(平成23年)4月に日本政策投資銀行(Development Bank of Japan Inc./DBJ)が創設した「DBJグリーンビルディング認証」。これは、環境やサスティナビリティに配慮した物件を評価し、融資をするといったスキームです。2014年(平成26年)2月より、「日本不動産研究所(JREI)」との間で業務連携を深化し、共同認証体制を構築しています。
[SMBCサステイナブルビルディング評価融資]
もうひとつの、金融機関が実施している環境認証制度が、三井住友銀行が創設した「SMBCサステイナブルビルディング評価融資」です。DBJ の認証制度ともども、2011年に開始されましたが、2012年末の時点で、2制度を合算して80を超える不動産が認証を取得しており、ここからも、日本においても環境ラベリング制度が広がりを見せていることが分かります。
[CASBEE不動産マーケット普及版]
国土交通省が主導し、2002年(平成14年)に発足した環境認証制度「CASBEE」ですが、認証を受けるのに非常に手間がかかるなどの理由で、あまり取得件数は伸びていませんでした。そこで、2012年(平成24年)、発足したのが「CASBEE不動産マーケット普及版」です。これは、新築時の建設業やディベロッパーだけでなく、不動産の運営者へも流通させることで、CASBEEをより広く普及させようという趣旨のもと、CASBEEの「超簡易版」として作られたものです。今後、取得件数が増えてくれば、物件の環境配慮のレベルを測る、ひとつの大きな指標となる可能性も秘めています。
[トップレベル事業所(優良特定地球温暖化対策事業所)認定]
「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)に加え、「東京都環境確保条例」(都条例)が改正されるなど、東京都では、2010年(平成22年)4月から、一定規模以上の事業者は、温室効果ガスの削減やエネルギー使用量の報告義務が課せられています。そんな中、都では、「温室効果ガス排出総量削減義務」と「排出量取引制度」において、地球温暖化の対策の推進の程度が特に優れていると認められる事業所を「トップレベル事業所=優良特定地球温暖化対策事業所」として認定しています。
※詳細は、TOPICS「トップレベル事業所等の認定実績」を参照下さい。
(2)J-REIT、投資法人の取り組み
日本でも環境認証制度(環境ラベリング制度)が設立されたり、「GRESB」に参加するファンド運営会社が増加してきたり、自社のホームページ等で環境方針を掲げる企業が増えてきたりと、確実に不動産への環境配慮の機運は高まってきています。さて、次は、投資信託、投資法人の取り組みについて眺めていきましょう。
[J-REITの取り組み]
J-REIT全36投資法人のうち、「日本ビルファンド投資法人」や「ジャパンリアルエステイト投資法人」「オリックス不動産投資法人」「大和証券オフィス投資法人」など14の投資法人において、環境ポリシーの作成・公表や認証の取得など、環境配慮型不動産運用への取組みが始まっています。
[森ヒルズリート投資法人の取り組み]
HP上で「サステナビリティに関する方針」を公表。環境・BCP・資産価値の維持向上・共通事項で、それぞれ方針を策定しています。また、「GRESB」における評価なども記載。2012年度のGRESB調査では、最上位の「Green Star(グリーンスター)」という評価を受けています。
[日本プライムリアルティ投資法人(JPR)の取り組み]
「A/3S」(Service/Safety/Save Energyの3つの「S」を核として、最上の「A(Amenity)」を提供する)という「JPRブランド戦略」を公表し、物件の価値付けに勤しんでいます。GRESB調査(2014年度)でもGreen Starを獲得。
[ケネディクス不動産投資法人の取り組み]
環境方針を掲げ、「DBJグリーンビルディング認証」「DBJ防災格付け」「SMBCサステナブルビルディング認証」「SMBC事業継続性評価融資」などを取得。2011年GRESB調査でアジア4位、2012年には同調査で最高位のGreen Star獲得しています。
(3)日本の投資家の動向
日本不動産研究所が実施した第25回不動産投資家調査の調査結果によると、「環境不動産(グリーンビルディング)」について、不動産投資市場では高く意識されてはいるものの、現時点では、市場における影響力は不明瞭であるとする認識が支配的です。しかし、「長期的に見れば、環境不動産が市場においてプラスに働くであろう」と回答した割合は、全体の70%強を占めています。これは、テナントが入居先として環境に配慮した不動産を選好すると見込んでの回答であると思われ、日本の投資家たちの「環境不動産」への関心が、確実に高まってきていることが分かります。
(4)日本のテナントの動向
2012年3月に東京都環境局が実施した「テナント入居に関するアンケート調査」結果において、「環境不動産への入居」に高い関心を持つとの結果が報告されています。また、「外資系企業においては、日本でテナントビルに入居する場合、LEED認証が取得できていないテナントビルには入居できない」と記載された民間レポートも存在。省エネ性能や防災性能に秀でた環境配慮型のオフィスビルへの、テナント・投資家のニーズの高まりを感じさせる調査結果です。
他方、環境配慮への取り組みに対してネガティブになっているテナントにその理由を尋ねると、「環境不動産に関する情報が少なく、入居先の選定基準となり難いため」といった回答が多く見られたということです。
[3]「環境不動産」に関する歴史・背景
一見、ビジネスとは結びつきにくい「環境(エコロジー)」という概念から生まれた商品・サービスが、地球環境や地域社会への社会的責任を果たすという役割を超えて、経済的に大きな成功を示す例も出始めています。
例えば、量産ハイブリッドカー「プリウス」(トヨタ自動車)はエコカーの代名詞として、今や市場の中で完全に認知されています。その他には、「LED電球」(東芝、パナソニック、日立、三菱電機、シャープ、NEC等)、「エネループ(ニッケル水素電池)」(パナソニック)、「エコキュート(自然冷媒CO2ヒートポンプ給湯機)」(コロナ、ダイキン工業等)、「い・ろ・は・す」(日本コカ・コーラ)など、様々な分野で、「環境」をひとつの軸足としたエコ商品が、近年、存在感を示してきています。
このような時代の流れの中で、一般企業も、そして、投資家も、もはや「環境」と無縁ではいられない時代に突入しているのです。そして、「投資」という行為にも、社会的責任への意識が求められています。
(1)世界おける環境不動産に関する動向
①LEED認証制度の開始
アメリカでは、2000年にひとつのグリーンビルディング認証の運用が開始されました。それが、「LEED(Leadership in Energy & Environmental Design:リード)」です。USGBC(NPO「米国グリーンビルディング協議会」:The U.S. Green Building Council)が開発・運営。今では、商業建築・住宅ともに、世界に普及している最も有名な認証のひとつになっています。
基準はカテゴリによって異なりますが、新築ビルの場合、持続可能な立地、水効率、エネルギー、資材&資源、屋内環境品質、デザインの革新性、地域優位性の項目で評価され、110ポイントを満点として、40ポイント以上で「認証」、50ポイント以上で「シルバー」、60ポイント以上で「ゴールド」、80ポイント以上で「プラチナ」と格付します。
自治体もLEED認証の導入には積極的で、例えばニューヨーク市では、2005年から「グリーンビルディング法」が施行。市が関与する建築プロジェクトで、建築コストが200万ドル以上となる場合、LEED認証取得が必須とされています。
②GRESBによる環境調査の開始
2008年になると、「GRESB(グレスビー)」による環境対応調査が開始されました。GRESBとは、「Global Real Estate Sustainability Benchmark」の略で、「グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク」と日本語訳されています。これは、不動産会社や運用機関の、環境に対するサステナビリティ(持続可能性)への配慮を測るベンチマークとして、APG・PGGMなど欧州の主要な年金基金グループ等によって開発されました。
これは、物件一つひとつを評価するのではなく、ポートフォリオ単位(不動産会社・運用機関単位)で評価する仕組みであるという点が特徴的です。国内では、サポーターとして「日本サステナブル建築協会(JSBC)」と「不動産証券化協会(ARES)」が、投資家メンバーとして「日本政策投資銀行(DBJ)」が加盟。調査に参加する運用会社も増加傾向にあり、2012年度には200社を超えています。
③グリーンリースの進展
グリーンビル(環境不動産)が持つ環境性能を十分に発揮するためには、環境認証制度や環境調査だけでは十分ではありません。環境に優しい建物を新築するのは比較的容易なことですが、その性能をしっかりと発揮して正しい効果を引き出すのは、存外難しいことなのです。そこで、必要となってくるのが、建物を管理する(建物への投資費用を負担する)オーナー・投資家側と、建物を使用する(建物への投資効果を享受する)テナント側の恊働関係です。
そこで登場したのが、「グリーンリース」という考え方です。グリーンリースとは、環境不動産を適切に運用するために必要な対策を、オーナー(及び投資家)とテナントが協力して進めていくための、賃貸借上の約束事(ルール)のことを言います。
最初にグリーンリースを実用化したのはオーストラリアで、その後、イギリス・アメリカ・シンガポール・カナダなどに普及しています。グリーンリースはまだ新しい考え方で、その効果には未知数なところも多いですが、オーナー・投資家・テナントがメリットを分け合い、不動産の環境対策を促進する有効な仕組みとして、グリーンリースの可能性に期待が寄せられています。
出典: 環境不動産普及促進検討委員会/資料・諸外国におけるグリーンリース・ガイド等の整理
(2)日本おける環境不動産に関する動向
①CASBEE認証制度の開始
海外でのグリーンビルディング認証の普及の波を受けて、2001年、日本国内でも国土交通省の主導のもと、「CASBEE (キャスビー、建築環境総合性能評価システム:Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)」という環境認証制度の運用が開始されました。これは、(財)建築環境・省エネルギー機構内に設置された委員会によって開発されたもので、常に改良が重ねられています。評価対象は、日本国内の建築物(新築・既存)です。
出典: 一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBEC)/CASBEE
②温室効果ガス排出量削減の義務化
さらに2010年(平成22年)4月からは、東京都においては、環境確保条例に基づいて、都市のCO2排出を削減するため、「キャップ・アンド・トレード制度(温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度)」を実施しています。オフィスビル、商業施設、産業施設等を対象とした世界初の都市型のキャップ・アンド・トレード制度として注目を集め、高省エネ性能ビル(カーボンハーフビルなど)の建設や、既存ビルのレトロフィットなどが薦められています。
③東日本大震災勃発
このように、省エネ法や環境確保条例(東京都)など、CO2排出量やエネルギー使用量に関する規制への対応が迫られる中で、東日本大震災が勃発しました。2011年(平成23年)3月11日に起こったこの震災によって電力需給が逼迫したため、エネルギーへの問題意識が一気に顕在化。安全・安心に直接的に関わる建物の耐震化などとともに、省エネ化にも意識が向けられているグリーンビルディングへの関心も、より一層の高まりを見せています。
[4]環境配慮型不動産(グリーンビルディング)の未来
(1)環境不動産の収益性
前述の通り、海外では環境不動産(グリーンビル)への取り組みは、不動産の収益性や価格に直接影響を与える要因となってきています。アメリカでは、不動産鑑定の際、環境に配慮したLEED等の認証物件であった場合、キャップレート(還元利回り=純営業収益÷総投資額)が下がり、環境性能の高いビルは資産価値が上昇するという現象が起こっているようですが、日本では、まだそのような動きは見て取れないというのが現状です。
しかし、良好なマネジメントがなされている環境性能が高い不動産についての働きかけへの機運は、欧米やアジア諸国を中心に、確実に高まってきています。
不動産の環境性能を高めることは、収益性の向上だけでなく、将来的な規制リスクの回避や資産流動性の確保などにもつながります。海外では「Revival Fund Management」など、オープンエンド型の私募ファンドが立ち上がり、投資資金の流入が始まりつつあるのです。
しかし、環境不動産(グリーンビルディング)への取り組みは、長い目で見れば、結果的に省エネで光熱費の削減にもつながり、修繕維持費やリスクも軽減。さらに、環境に配慮しているという、企業イメージ向上という価値も付加されます。そして、欧米と同じように、環境への取り組みが、収益面でのベネフィットをダイレクトにもたらすようになる時代が、近い将来、日本でもきっと訪れることでしょう。
(2)日本は遅れているか?
環境不動産の推進について、国際的な動きに、現状、日本は一歩遅れているように見えます。また、環境問題への社会的責任の追及も欧米の方が先進国であるイメージです。しかし、400年も昔、世界トップレベルの人口密集都市だった江戸の町は、世界でも類を見ない清潔な街で、今よりも省エネやリサイクルのシステムは優れていたといいます。ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんは、国連で世界に向けて「もったいない」という日本語を伝えようとしてくれました。
「サスティナブル・デベロップメント(持続可能な開発)」という言葉が環境問題で使われる始まりとなった「ブルントラント委員会」は、ナイロビ会議で日本政府が特別委員会の設置を提案したことから始まったわけですし、CO2問題といえば京都議定書があります。また、省エネについて日本メーカーの技術が世界有数なのは周知のことでしょう。記憶に新しい東日本大震災では、東京の40年前に建設された200m近い超高層ビルは、震度5強の揺れにも倒れることはありませんでした。
サスティナビリティや環境不動産という分野において、世界基準の規格対応には一歩遅れた感はありますが、少ない資源を大切にし、山や海を神様として崇め自然と共存し、お互いの田畑を共に耕す助け合いの精神と文化で培われた日本人のDNAは、現代においては優秀な省エネ機器の開発に、存分に活かされているのです。そんな日本が、環境不動産等の分野で世界を先導していく未来が訪れることを願ってやみません。
TOPICS
サスティナブルデベロップメントと12歳の少女「セヴァン・スズキ」
環境不動産、サスティナビリティを語る上で忘れることの出来ない、環境問題に大きな一石を投じた1人の少女がいます。当時12歳の少女であった、カナダ生まれの日系4世、環境活動家の「セヴァン・カリス=スズキ」です。1992年(平成4年)、彼女は地球サミット(リオデジャネイロで開催された環境サミット)で「伝説のスピーチ」を残しました。
国連環境計画管理理事会特別会合で日本政府が呼びかけ、「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」が国連に設置。そうして、「Our Common Future」という報告書の中で「サスティナビリティ・デベロップメント(持続可能な開発)」が提唱されたのは、1987年(昭和62年)のことでした。
その5年後の1992年、172カ国のべ4万人が参加し、史上最大と言われた地球サミットで彼女は、世界の指導者たちを前に「直し方のわからないもの(自然世界、環境など)を、これ以上壊すのは、やめてください」と6分間のスピーチ。彼女のメッセージは、多くの人々の心を打ちました。環境問題への関心やサスティナビリティといったキーワードも広く知られるようになり、その活動も様々な分野に波及したと言われています。
TOPICS
トップレベル事業所等の認定実績
「東京都環境局HP/トップレベル事務所」より、優良特定地球温暖化対策事業所として認定された事業所を幾つかご紹介したいと思います。
- [平成26年度認定事業所]
- 永代ダイヤビルディング、第一三共株式会社 品川研究開発センター、日本橋室町野村ビル、三井住友銀行本店ビルディング、室町東三井ビルディング
- [平成25年度認定事業所]
- 丸の内パークビルディング(三菱一号館含む)
※「準トップレベル事務所」として、クロスゲート新砂、新宿NSビル、日土地ビル - [平成24年度認定事業所]
- 赤坂ガーデンシティ、アートヴィレッジ大崎セントラルタワー、グラントウキョウサウスタワー、品川シーサイドイーストタワー、品川シーサイドウエストタワー、森永乳業株式会社 東京工場
※「準トップレベル事務所」として、霞が関ビル 東京倶楽部ビル、株式会社エネルギーアドバンス 芝浦地域冷暖房センター、グランパーク、ThinkPark Tower、新宿三井ビルディング、ビットアイル第4データセンター、東京二十三区清掃一部事務組合 品川清掃工場
TOPICS
環境評価取得事例「ザイマックス溜池山王ビル」、他
建築物の環境性能評価システム「CASBEE」には、評価対象のスケールに応じて建築系や都・まちづくり系の評価ツールがあり、それらは「CASBEEファミリー」と呼ばれています。評価は「建築物の環境負荷÷建築物の環境品質」で算出され、C、B−、B+、A、Sの5段階のランクに分けられます。
Sランクを獲得した主な環境不動産は、「みなとみらい21地区・40街区プロジェクト」「ららぽーと柏の葉」「新宿駅新南口ビル」など。そして、2012年に「CASBEE不動産マーケット普及版」が新設されましたが、その認証第1号は千代田区の「ザイマックス溜池山王ビル」でした。このビルが築40年の築年が経ったビルでありながらAランクを獲得できたのは、以下の改善リニューアルがなされたためです。
- ・エネルギー効率の見直し
- ・カーテンウォールをはじめ、空間設備の高効率化
- ・受動喫煙の防止、室内温度、音環境の管理
- ・耐震構造を補強しつつ眺望の確保等、広範囲に亘る室内環境の配慮
- ・BCP、BCM(事業継続マネジメントBusiness continuity management)の対策に、蓄電池を設置し飲料水も確保
また、千代田区の「パシフィックセンチュリープレイス丸ノ内」は「CASBEE不動産マーケット普及版」においてSランクを獲得しています。評価されたポイントは、以下。
- [ハード面]
- ・高いレベルの耐震性、24時間以上の稼働時間を持つ非常用発電機の設置
- ・日差しの強さを自動制御するブラインドや自動調光システム、高断熱Low-e複層ガラスの導入
- ・連続する街並みとの調和や緑豊かなアウトドアスペースを目指したランドスケープの実現
- ・執務室の天井高を2.8m以上確保、十分な大きさの窓を設置する等、一定の屋内環境を確保
- [ハード&ソフト面]
- ・省エネ型設備機器の導入とテナントの協力を含めた運営管理によって、実際の使用量においても省エネを実現
- [ソフト面]
- ・通信系の非常時の途絶対策を講じている
- ・灌水設備を設置し定期的に点検すると共に、緑地の荒廃を防ぐ定期的巡回を実施
- ・清掃及び設備の維持管理状態のインスペクション(検査)を実施
といった内容が、サスティナブル・ビル、環境不動産としての高い評価につながりました。どの評価機関でもそうですが、単なるハード面での省エネ性能だけでなく、快適性であったり、従業員満足であったり、運用するソフトの面も評価を大きく左右するのです。
TOPICS
責任投資原則(PRI)と責任不動産投資(RPI)
[責任投資原則(PRI)]
2006年、国連のコフィー・アナン事務総長が、「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」と言う声明を発表しました。責任投資原則とは、金融機関(機関投資家)に対して提唱されたイニシアティブであり、機関投資家による投資分析と意思決定のプロセスに「ESG課題(環境・社会・ガバナンス)」を反映させるべきとした、いわば世界共通のガイドラインで、以下の6つの原則で構成されています。
- [原則1]私たちは投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込みます。
- [原則2]私たちは活動的な(株式)所有者になり、(株式の)所有方針と(株式の)所有慣習にESG問題を組み入れます。
- [原則3]私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
- [原則4]私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
- [原則5]私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
- [原則6]私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
法的拘束力はないものの、署名した機関投資家は、この6つの原則にコミットメントしたことになります。世界各国の金融業界における多くの有名大手企業が署名しています。本原則の推進の主体は、「国連グローバル・コンパクト」「国連環境計画(UNEP)」です。
[責任不動産投資(RPI)]
「責任投資原則(PRI)」を受けて、国連環境計画・金融イニシアティブ「UNEP FI(United Nations Environment Programme Finance Initiative)」の不動産ワーキンググループが定めたものが、「責任不動産投資(RPI:Responsible Property Investing)」です。
これは数ある投資のうち、「不動産投資」に対象を絞って出された首唱(イニシアティブ)です。RPIは、不動産の持続可能なライフサイクルの創造を目指すもので、「通常の金融上の目標に加えて、環境・社会・企業統治へ配慮するアプローチであり、最低限の法律上の要請を超えて、不動産環境的・社会的なパフォーマンスを改善するもの」と説明されています。
こういった背景を源流として、不動産投資における環境配慮への関心は、近年、加速度的に高まってきているのです。
このページで登場する「CRE」用語
- BCP
- 事業継続計画(Business Continuity Plan)のこと。自然災害や事故、テロ等、予期せぬ事態にも、事業を継続させる、または早期に復旧させるためのプログラムを指す。2004年イギリスでは、全ての救急隊と地方自治体に対して緊急時の備えを促す「民間緊急事態法」が制定され、BCPは義務化されている。企業のCSRマネジメントの一環として取り組まれることも多い。
- 機関投資家
- 個人ではなく、企業体(損害保険会社、生命保険会社、普通銀行、信託銀行、信用金庫、政府系金融機関、年金基金、共済組合、農協など)で投資活動を行う、大口投資家のこと。一般投資家と違い、大量の資金を使って株式や債券を運用する。
- ESG
- ESGとは「Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス:企業統治)」の頭文字を並べたもの。「ESG課題」というと、企業などが、地球の環境や社会的な問題に対して、取り組むべき課題を指す。
- レトロフィット
- 旧式の機械・機器を改装・改修して新式にすること。建物においては、施工後に目的に添った修繕(例えば、耐震性の改善など)を実施することを総称していう。