企業価値を最大化するためのCRE戦略(企業不動産戦略)

CRE戦略的な視点で眺める
「事業用資産の譲渡・売却」

2015.9.10

CRE(Corporate Real Estate:企業不動産)戦略を複眼的な視点から策定していく際、事業用資産の売却・譲渡に対しても、戦略的な考えを持って臨んでいかなければなりません。

近年、一般事業法人による事業用不動産の譲渡・売却の件数は、減少してきているように見えますが、今回のコラムでは、そのようなトレンドに至った歴史的な経緯を踏まえつつ、実際の企業不動産(店舗用物件や事業用土地、収益用不動産など)の売却事例等もご紹介していきたいと思います。

もくじ

  • [1]事業用資産売却における、近年のトレンド
    • (1)バブル期と崩壊後の日本における不動産取引の振り返り
      ・バブル経済期:実需を大きく上回る、投機的な土地価格の高騰
      ・バブル崩壊期:地価の下落が続いた、失われた10年
    • (2)リーマンショック後に減少した不動産・物件の売却数
      ・リーマンショック前:オフバランスと不動産投資マーケットの創設
      ・リーマンショック後:縮小する事業用資産売却の動き
  • [2]「事業用資産の売却」をCRE戦略の視点から見直す
    • (1)実際には売却する事業用資産が底をついたわけではない?
    • (2)財務的動機付けがないために、売却に踏み出せないのか?
    • (3)不動産の管理・戦略策定が一元化されていない企業が多い
    • (4)企業不動産の戦略的ポートフォリオマネジメント
  • [3]事業用資産の譲渡・売却事例
  • [TOPICS]
    • ・そもそも、「売買(売却・購入)」とは?
    • ・全国宅地建物取引業協会連合会
    • ・東京は世界一の不動産市場
CRE戦略的な視点で眺める
「事業用資産の譲渡・売却」

[1]事業用資産売却における、近年のトレンド

(1)バブル期と崩壊後の日本における不動産取引の振り返り

[バブル経済期:実需を大きく上回る、投機的な土地価格の高騰]

バブル経済期(1985年〜1991年)においては、国際化の流れの中で東京の一極集中化が押し進められ、東京都心部のオフィスビル物件、一戸建て・マンションそしてゴルフ場に至るまで、事業用地の拡大に対する需要が急増。金融緩和も相まって、地価の連鎖的高騰の波が、都心部の商業地から周辺の他都市部へと及んでいきました。

不動産価格は必ず値上がりするという「土地神話」を背景に、当時、実体経済はすでに低迷していた(この時期の消費者物価指数は横ばい)にも関わらず、投機的な土地需要ばかりが膨らみ、都市近郊の土地価格は異常高騰。またこの時期のマンションは利回りではなく、転売して儲けるというキャピタルゲインの考えが強かったため、居住ではなく投機目的が中心でした。これがバブル経済の大きな特徴です。

[バブル崩壊期:地価の下落が続いた、失われた10年]

しかし、地価の異常高騰に対して採られた抑制策の数々(監視区域制度・地価税の創設、不動産融資総量規制など)によって、不動産取引に急ブレーキがかかり、上がり続けていた地価が一転して、下落。土地を担保に行われたローンは担保価値が融資額を下回る担保割れの状態。
以降、日本経済は、10数年の下げ止まらない期間、「失われた10年」とも言われる、バブル崩壊期(1991年〜2000年)を迎えることになります。

(2)リーマンショック後に減少した不動産・物件の売却数

[リーマンショック前:オフバランスと不動産投資マーケットの創設]

不動産価格および株価の低迷が長期化する中で、企業不動産(CRE)を売却して、バランスシートから切り離し(オフバランス)、キャッシュフローを生み出していくしくみが、次第に整備されていきました。

バランスシートをスリム化することで、「ROE(株主資本利益率)」「ROA(総資産利益率)」を向上させ、株価の上昇やキャッシュフローの増加を実現し、次の事業への資金調達を図るという、「持たざる経営」が大きく取りざたされるようになったのです。

そうして、流動化を増した日本の不動産マーケットに外資が参入し、低金利のメリットを活かしながら、都市部の事業用不動産・収益不動産を取得していきました。私募ファンドに集められた資金で、企業が保有する不動産が次々と購入され、その出口としてREIT(不動産投資信託)に売却。不動産証券化による「不動産投資マーケット」の創設です。

[リーマンショック後:縮小する事業用資産売却の動き]

しかし、2008年(平成20年)9月、アメリカのサブプライムローン問題に端を発したリーマンショックにより、外資の多くは撤退し、再びマーケットは停滞してしまいます。

地価が上昇し始めていた2005年ごろから、不動産売買を本来業務とする「不動産会社・建設会社・REIT・SPC」などが、一般事業法人などから事業用物件等を購入する動きが活発化していたのですが、リーマンショックによって地価の下落が顕在化されると、その動きも途端に縮小。事業用不動産の売却数は落ち込んだままで、未だに大きく回復してはいません。

[2]「事業用資産の売却」をCRE戦略の視点から見直す

(1)実際には売却する事業用資産が底をついたわけではない?

今まで述べてきたように、近年、一般事業法人による企業不動産の売却の動きは、停滞傾向にあるように見えます。しかしながら、一般事業法人による不動産取引が活発だったころ(1998年)と近年(2008年)を比較しても、企業が所有する土地そのものは、全体として、ほとんど減少してはいないのです(国土交通省「法人土地基本調査」に拠る)。

資産別の保有額の増減について見てみると、以下のようになっています。

[保有資産額が減少したもの]
  • ・社宅・寮・従業員宿舎用地(アパート・マンション・一戸建て等)
  • ・倉庫・工場用地
  • ・その他の福利厚生施設(グラウンド等含む)
[保有資産額が増加したもの]
  • ・事務所用地(自社用、賃貸用)
  • ・店舗用地(自社用、賃貸用)
  • ・賃貸用住宅用地

これは、バブル崩壊後の景気低迷により、コスト削減や不採算事業からの撤退を余儀なくされた企業が、債務圧縮のためにノンコア資産から売却を進めていったということを意味しています。

そういったことを踏まえると、バブル崩壊後の企業は、不要な資産・不動産のリストラ(オフバランス化・売却)を進めており、一方で新たに取得した不動産もオフィスや事務所などの事業用コア資産であることから、確かに売却に回す資産は残っていないと見ることもできそうです。

とはいえ、老朽化や耐震化等の課題を抱える事務所・オフィスや工場、空室だらけの社宅、あるいは、その他遊休不動産など、扱いに頭を悩ます資産を、売却できずに持ち続けているという企業も多いのではないでしょうか。

(2)財務的動機付けがないために、売却に踏み出せないのか?

事業用資産の売却を必要とする財務的な動機には、主に以下の4つが挙げられます。

  • 1.事業の債務返済
  • 2.事業資金調達・決算対策
  • 3.不動産保有コストの軽減
  • 4.資産価値の下落へのリスクヘッジ

バブル崩壊後の1995年では、「1.事業の債務返済」が、資産売却の理由の約45%を占めていましたが、最近では、有利子負債は減少し、企業の内部留保も増加傾向にあって、つまりは、企業の業績が全体として回復基調にあるといえます。そのため、「1.事業の債務返済」という理由は右肩下がりで、2011年には約13%までに低下しています。

「2.事業資金調達・決算対策」が動機の資産売却(検討)は、だいたい横ばいで20〜25%。長期間の地価下落の中で、売却を検討したところで含み益のある不動産自体がそもそも少なく、この理由も、売却を後押しする力強い動機とは言えそうもありません。

繰り返しになりますが、最近では、長らく停滞し続けていた不動産マーケットに回復の兆しが見え始めてきています。リーマンショックで底をついた土地価格が、これから上昇をはじめ、ミニバブルが起こるのでは?
そのように考えている企業が、高値で売却できる時期が来ることを窺っている。これが、今の売却件数の少なさの、ひとつの理由なのかもしれません。

しかし、これから、その保有不動産が値上がりし、過去の水準に戻る保証などないということは、しっかり認識しておかなければならないでしょう。

(3)不動産の管理・戦略策定が一元化されていない企業が多い

2008年に、国土交通省によって「CRE戦略を実践するためのガイドライン」が公表されて以来、企業不動産管理の一元化・集約化に対する必要性が、強く認識されるようになってきました。実際に、企業不動産戦略の策定・実施に注力する、専門の部署を設置している企業も出てきています(スタンレー電気、東芝、日産自動車など)。

しかしながら、そういった企業はまだまだ少数だというのが、実態です。

CRE(企業不動産)の一元的・集約的管理がなされていないケースには、以下のよう点が挙げられます。

  • 1.物的管理や売買管理が、総務、財務など複数部署で分担されている
  • 2.会社本体の管理不動産と、子会社の管理不動産が分かれている
  • 3.事業部ごとに、それぞれ使用する不動産を管理している
  • 4.不動産がある場所ごとに、該当エリアの支社・支店などが管理している

企業不動産戦略(CRE戦略)は、経営戦略の要です。そして、そこには、経営層が思い描くビジョンや理念が正しく反映されていなくてはなりません。また、その一方で、実際に日々、不動産を利用する現場の社員・スタッフたちの声も汲み取ったものである必要があります。

経営戦略的に売却すべき事業用資産がありながら、売却が実行できていないのであれば、それは、企業不動産の一元管理化ができていないからなのかもしれません。

(4)企業不動産の戦略的ポートフォリオマネジメント

企業不動産の一元管理への手法として、現在、「ポートフォリオマネジメント」が注目を集めています。

ここで言う「ポートフォリオ」とは、

  • ・事業用資産、不動産の集合
  • ・事業の集合
  • ・各種マネジメントの集合

などの、大きな集合の「単位」のことを意味します。
一つひとつの不動産を個別に分析する「個別不動産分析」では、抽出される問題点がひとつの不動産に限定されるものであったり、問題解決への優先順位が判断できなかったりして、企業経営全体に与える影響が正しく分析できません。

一方、企業不動産のポートフォリオ(集合)全体に視野を広げる「ポートフォリオ分析」は、以下の過程で進められ、全社的なCRE戦略の企画立案において、大きな役割を果たしていきます。

1.ポジショニング分析

各集合・カテゴリーで、個別不動産の分析結果を集約し、物件の個別性だけでない、マネジメント上での課題を抽出。「事業用・非事業用」「コア・ノンコア」のマトリクスで分類した上で、マッピングを行います。

2.個別不動産分析

個別の建物・土地を経営資源と捉え、経営的観点から、その重要性・リスク等を、物的・法的・経済的側面から分析していきます。

3.最適化シミュレーション

ポジショニング分析と個別不動産分析の結果を踏まえ、CREに関する使用形態・所有形態別の最適化シミュレーションを行います。その際に、複数のケース(購入・売却・継続保有・活用等)を設定します。

4.財務影響分析

実際に上記シミュレーションのCRE戦略を実施した場合に、財務諸表(バランスシート)や財務指標にどのような影響を及ぼすかを確認し、この戦略が企業価値向上に果たしうる効果・役割を評価します。

[3]事業用資産の譲渡・売却事例

「日経不動産マーケット情報」の不動産取引の開示事例を参考に、オフィスやマンション以外の事業用資産の売却事例を紹介したいと思います。

札幌の大型ホテル売買事例(2015年2月12日)

フォートレス・インベストメント・グループ関連の特定目的会社は2014年12月、札幌市中央区のアートホテルズ札幌(札幌市中央区南9条西2丁目)を取得した。売り主は加森観光(札幌市)。売り主の加森観光は、北海道を中心に全国で観光施設やホテルなどを運営している。アートホテルズ札幌については、115億円を投じて開発し、自社で運営していた。開発にあたってはバリアフリー対応に力を入れ、国内ホテルとして初のハートビル法認定を受けている。

キリンの旧社宅を取得、積水ハウス(2015年3月3日)

キリンホールディングスは旧社宅を売却し、積水ハウスが取得した。

新築の大型物流施設の売却事例(2015年6月29日)

宮城県富谷町(仙台市の北隣に位置する町)でプロロジスが開発した物流施設を売却し、東北6県の生活協同組合が参加するコープ東北サンネット事業連合が購入した。

名古屋の病院の売買事例(2015年8月17日)

医療法人が名古屋市に保有していた旧病院を売却し、オープンハウス・ディベロップメントが購入した。

TOPICS

そもそも、「売買(売却・購入)」とは?

[売買とは?]

わたしたちは、日々、色々なモノやサービスを売り買いして日常生活を送っていますが、ここでは、その「売買」について、少し考えてみたいと思います。

売買(ばいばい)とは、日本の民法第555条の条文によると、以下のように規定されています。

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

これは、法律的契約であり、典型契約(※)の一種です。
また、当事者双方の合意のみで成約となり、その財産権の交換には代金の受け渡しが発生するため、「諾成(だくせい)」「有償」「双務」の契約でもあります。

そして、このような売買契約を締結した上で、それに基づいて財産権の引渡しを行うことを、買主の立場からは「買い受ける」(「買受け」)といい、売主の立場からは「売り渡す」(「売渡し」)といいます。

[売買契約に付随するもの]

売買契約がなされた際に、「手付」が交わされることもあります。手付とは、不動産(土地や建物等)など、高価なものの売買を行う際に、当事者の一方(買手)から相手方(売手)に交付する金銭や、その他の有価物のことを指します。平安時代の昔より行われ、江戸時代には一般化していった「要物契約」です。

また、売買契約が締結されると、買主には代金支払義務が発生します。ただし、買い受けた土地や建物などの不動産について、質権・抵当権・先取特権の登記がある際などには、代金(全部または一部)の支払いを拒否することができます(代金支払拒絶権)。

[担保を目的とした売買契約]

売買は、担保(抵当)目的で利用されることもあります。こういった、担保目的の売買のことを「買戻し」といいます。

買戻しとは、売買契約を締結する際に、売主が、ある定められた期間内に、売買と契約にかかる費用を返還できれば目的物を取り戻せる旨(=解除権)が約束された契約のこと。

買戻しは、民法では不動産についてだけ認められています。この契約は、代金や期間(10年以内/期間を定めなければ5年以内)を決定した上で、登記もしなければいけないので、実際にはあまり利用されていないようです。

※「典型契約」
消費貸借、使用貸借、贈与、売買、交換、請負、委任、寄託、賃貸借、雇用(雇傭)、組合、終身定期金、和解の13種の契約のことを指す。有名契約とも。

※「諾成契約」「要物契約」
諾成契約とは、契約の当事者間の意思表示が合致さえすれば成立する契約のこと。
一方、要物契約とは、契約者間の合意だけでなく、目的物や有価物の引き渡しがあって初めて成立する契約のこと。

TOPICS

全国宅地建物取引業協会連合会

土地・建物の売買や譲渡における仲介業務を行う宅地建物取引業者は、企業不動産取引においても最も重要な役割を担っており、高い公共性が求められます。全国宅地建物取引業協会連合会は、全国47都道府県の各都道府県に会員として宅地建物取引業協会(宅建協会)を設置。その会員組織に加盟する構成員(宅地建物取引事業者)は、約10万社で不動産業界における最大の団体を構成しています。

北海道・東北
北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
関東・甲信越・静岡
茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県
東海・北陸
富山県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、三重県
近畿
滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国
鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国
徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州
福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

TOPICS

東京は世界一の不動産市場

首都圏の中古マンション動向として、アベノミクスによる経済政策、東京オリンピック誘致、円安傾向などにより国内外の投資を呼び込むことで、不動産投資市場の活発化が見られています。

世界の都市と比較して東京の不動産が魅力なのは、長期金利の低さと空室率の低さにあります。家賃は景気に左右されないといわれる中でも、分譲マンションの平均賃料は2007年との比較で5%程度値上がりしています。特に都心のワンルームは人気で満室物件も多く、中古物件でも特集のサイト掲載前に販売されて、売れてしまうものもあるようです。

このページで登場する「CRE」用語

消費者物価指数(CPI)
消費者物価指数「Consumer Price Index(略称CPI)」とは、消費者(全国の世帯)が実際に購入する際においての「商品・サービスの小売価格(物価)」の変動を測定するためのもの。総務省統計局が毎月作成している。
不動産融資総量規制
「総量規制(そうりょうきせい)」とは、金融機関による過剰な不動産融資に対する規制のこと。また、特にバブル期末に大蔵省(1990年当時)から金融機関に対して行われた行政指導のこと指す。1991年12月に解除。大蔵省銀行局長通達「土地関連融資の抑制について」の中にある「不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑えること」をいう。この通達を出したのは大蔵省銀行局長・土田正顕。ちなみに、当時の大蔵大臣は橋本龍太郎。
SPC
「特別目的会社(special purpose company)」の略。企業が資金調達等の目的で設立する会社(「資産の流動化に関する法律」に基づく)。SPCが不動産の所有者となって、資金は一般投資家から募り、運用自体は信託銀行などに委託。売却益や賃貸収入から利益を上げて、それを投資家への配当に充てる。

[コラム配信元より]
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