企業価値を最大化するための
「CRE戦略(企業不動産戦略)」

企業不動産(CRE=英語名Corporate Real Estateの略)とは、企業が事業を継続するために保有(所有)または賃貸している不動産全般を指します。大きく分けてコア資産とノンコア資産があり、投資効率性を確保するには両者を区別して考えることが重要です。ちなみに、前者は「事業の用に直接利用されている、自社施設(工場、店舗、研究所、本支社、本支店、営業所、オフィス、事務所等)」、後者は「本業に直接利用されていないが間接的に効用をもたらすもの(社宅、寮、福利厚生施設、保養所等、あるいは、その他関連する保有・賃借不動産」と説明されています。

日本における法人所有の不動産総額は約470兆円にも及び、国の不動産資産総額(2500兆円)の約2割を占めます。これは、全「J-REIT(リート/不動産投資信託)」が有する資産総額の約42倍にも相当する莫大な資産です。
企業不動産戦略という概念が生まれた米国では多くの企業に専門部署が置かれていますが、近年になって日本でも経営資源の全体最適化を目的に、CRE戦略に取り組む企業が増加傾向にあります。また、策定・実践に際しては、企業の内部要因と不動産・金融マーケット全般の動向といった外部要因をリンクさせて考える必要あり、総合的な専門性が求められます。

お持ちの不動産についてのご相談はこちら

なぜ今、企業不動産戦略が必要なのか

企業にとって不動産とは、「生産資源」としての側面と、「財産」としての側面を持ちます。企業不動産戦略では、会社の利潤を最大化するために土地・労働力・資本の最適配分の実現を第一に目指しますが、同時に、不動産は「時間性」と「外部性」を伴うものです。

「時間性」とは企業と不動産のライフサイクルを踏まえて課題に対応すべきであるということ。そして、「外部性」とは住宅などと同様に地域社会と接点を持つ企業不動産には必然的にCSRが生じることを意味します。そのため、企業不動産は産業の生産効率性だけでなく、経営戦略的観点からの意思決定が求められるのです。

先のバブル崩壊を教訓とし、「不動産市場と金融市場の適切な融合」をテーマに不動産金融市場はいかにあるべきか、企業は不動産とどのように向き合っていくべきか。それらの課題に対する試み・プロセスそのものが企業不動産戦略への取り組みに他ならないのです。
また、国土交通省は、普及・啓発の促進のため「ガイドライン」及び「手引き」を官民恊働のもとに作成し、2008年4月に公表。公的・政策的な側面から推進を後押ししています。

[財務会計上の必要性]

リスクとしての性格が強い不動産は、財務面でも企業価値に対して直接的な影響を及ぼし得ます。近年、投資不動産の時価開示や減損会計の導入、棚卸資産の低価法適用など
IFRSへのコンバージェンスと、新会社法や金融商品取引法によって義務づけられた内部統制制度の整備への対応が喫緊の課題として急浮上。収益性の指標であるROEばかりに拘泥せず、持続可能性を最大限に引き出す努力が求められています。

[経営戦略上の必要性]

不動産の「社会への外部性」を考慮に入れた上で、経営資源の全体最適化を図るためには、コンプライアンスやグリーンビルディングなど企業倫理や環境への配慮も欠かせません。今日では、SRI(社会的責任投資)により収益性と社会的責任の両立は果たし得るか、といった問題への関心も高まりを見せています。また、経営者によるトップマネジメントの重要性も指摘されており、ファシリティマネジメント(FM)の概念に基づいて「PDCAサイクル」を徹底化させるなど、正確な業界・市場分析と組織体制確立への求めも強まっています。「CRE戦略実践のためのガイドライン」(2010年改訂版)

支援サービスの種類

CRE戦略の推進にはコーポレートガバナンス(企業統治)に対応した適切な「CREマネジメントサイクル」を構築する必要があります。これはアクションに経営理念が正しく反映されるよう定型・類型化された管理フレーム・マニュアルが求められるからです。

その基本的な流れは、以下の通りです(PDCAサイクル)。

1.Research(リサーチ=調査)=[Act(改善)]
ポートフォリオのリサーチ(デューデリジェンス[※])を行ないフレームワークを制定。データ分析評価手法の見直し等を実施。

2.Planning(プランニング)=[Plan(計画)]
具体的なスキームを作成。景気や自社の事業計画と照らし合わせ、今後の最適なポジショニングを模索。

3.Practice(プラクティス)=[Do(実行)]
所有・使用、購入・売却等、立案した組替え施策の実行。アセットマネジメント、プロパティマネジメント、証券化・仲介など。

4.Review(レビュー)=[Check(評価)]
施策の効果検証・レビュー。有利子負債削減や株価改善、バランスシートの均衡化など企業価値向上への実効性をモニタリング。そうして、再び「1.Research」に戻る。

※「デューデリジェンス」とは、投資家や金融機関が投資やM&A、株式や債券の引受業務を実施する際に、事前に行われるべき正当な注意義務及び努力、つまり、一連の査閲活動のこと。金融商品・デリバティブなど投資対象におけるリスクリターン・収益力等を財務・法務・環境・経営・人事などの観点から検分していく。

このように、実践にあたっては組織・体制を改革した上で取り組むことが望まれますがITツールの活用やアウトソーシングなどにより柔軟な対応が可能となる場合もあります。企業規模、管理状況等を広く考慮に入れながら適切に判断していくことが大切です。

また、総合的な支援を行っている外部リソースについては、大手デベロッパー、コンサルティング会社、不動産総合サービス会社などが挙げられ、それらが行う支援サービスの種類については、以下のようなものがあります。

参照:「CRE戦略実践のためのガイドライン」(2010年改訂版)

[戦略立案コンサルティング]

企業の経営計画などを鑑みて、適切なCRE戦略の立案をサポート。流れは概ね以下の通りです。

(1)ポートフォリオの把握・整備

比較・解析すべきインデックス・カテゴリーが多く、計画的・多角的なアプローチが求められます。

・物理的データ
土地建物の基本項目、遵法性(建築基準法適合状況など)、工事履歴、保全計画など。

・権利的データ
登記、法令・条例などによる制限など。

・経済的データ
収支、稼働率・回転率といった利用状況など。

・運用データ

・予測、調査地価・圏域人口動向や近隣のインフラ状況といった、周辺の立地を踏まえた予測など。

(2)フレームワークの構築

(1)の結果を基にフレームワークを構築し、ポジショニング分析を実行。最適化シミュレーション、財務影響分析等も同時に行います。

(3)アクションプランの検討

結果を取りまとめ、「企業不動産最適化施術書(プログラム)」を策定。経営者層にレポーティング。アクションプランには、継続保有・使用や「購入、売却(一括、分割、証券化、セールス&リースバック等)など、さまざまな選択肢が考えられます。

[不動産鑑定]

不動産鑑定士の国家資格を取得した専門家が鑑定評価額を算出します

[不動産仲介(売買・賃貸借)]

不動産仲介とは、買主・売主もしくは貸主・借主の間に立ち、売買契約や賃貸契約を取り持つことをいいます。本社移転、工場・物流再編、遊休資産の見直しなどへの経営戦略上のニーズに対して、調査(現地、投機事項、法令規制、市場動向、デューデリジェンス、PCB・アスベスト、価格等)を行ない、企業にソリューション・プランを提案した上でスケジュール管理や境界立ち会い、条件交渉なども実施。売買契約・物件引き渡しまでをサポートしていきます。

[建物の企画・設計、監理]

商業店舗、リゾートホテル、福祉・医療施設、オフィス、マンションなど多様化するニーズに対し最適な空間プランニング・設計を実施。施工時の工程・品質チェックから竣工検査の立ち会い、引き渡しまで幅広くサポートする管理サービスもあります。

[プロパティマネジメント(不動産経営代行)]

プロパティマネジメントとは「建物管理とテナント業務とを一括して行い、資金管理を含めてオーナー・投資家またはアセットマネジャーに代わって投資不動産を総合的に管理する」業務です。テナント誘致、建物の維持・管理、賃料・共益費などの請求・回収、トラブル時のクレーム対応・解決などが挙げられます。