首都直下地震に備えて・・・
企業に求められている震災対策は?
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危機管理経営アナリスト 金重凱之 氏
株式会社国際危機管理機構、株式会社都市開発安全機構の代表取締役社長。
1969年警察庁に入る。内閣総理大臣秘書官、警察庁警備局長などを経て、2001年に退官。
上場企業を含む数百社で危機管理経営コンサルティングの実績がある。
震災対策をとっていない企業、あるいは何か備えなければと思っていてもどのような対策をとるべきなのか分からないといった企業が多く見受けられます。今回は、従業員やその家族の命を守るために企業として取り組むべき具体的な震災対策・行動について、震災前・発災直後・揺れがおさまってからの3段階に分けてご紹介します。あなたの企業ではきちんと対策がとれているか、チェックシートで改めて確認してみましょう。
震災前に予め準備しておくこと
地域の危険性を知る
まずは自社のオフィスや拠点がある地域の危険性を把握しなければなりません。
阪神淡路大震災では、死因の96%強が建物の倒壊並びに発災直後の出火、東日本大震災では、死因の92%強が津波によるとみられる溺死でした。自社や自宅などにどのような危険性があるのか、建物の倒壊や火災、津波など、地震によって生じる危険性を、各自治体や国土交通省が作成している各種ハザードマップで確認しておきましょう。(国土交通省 ハザードマップポータルサイト※1)
「安全空間」を作る
入居しているビルの耐震構造は確認していますか?ただし、新耐震基準を満たしたビルだから安全というわけではありません。オフィスの家具やOA機器類の落下や転倒・移動は、死亡・怪我の原因となるだけではなく、避難経路を塞ぐ危険性もあります。家具やOA機器を固定し、物が倒れてこない「安全空間」を確保しましょう。
緊急時の行動要領の作成
緊急時には災害用伝言ダイヤルなどの災害専用回線が優先され、携帯電話同士など一般の通信は規制されることが予想されます。そういった状況でも各従業員が適切な行動をとれるように、緊急時の行動要領や、どのような場合に出社・在宅するのか、基準を定めましょう。発災が勤務時間中と勤務時間外に分けて作成する必要があります。
訓練を実施する
行動要領や防災計画などのマニュアルを作成し、従業員に周知させたとしても、それを行動に移せなければ意味がありません。各自意識を持ち、いざという時に動けるよう、教育・訓練を継続的に実施しなければなりません。訓練で気づいたことがあれば改善していきましょう。
備蓄品の確保
従業員が事務所内に留まれるよう最低3日分の水や食料、毛布などの備蓄をしておきましょう。また、帰宅者用のマップや一日分の食料などが入った非常持出袋の準備、対策本部を設置する場合には、対策本部用の備品や救急グッズなど、それぞれの使用に合わせた備蓄をしておきましょう。
安否確認について
従業員が安心して社内に留まれるように、予め家族間でも複数の連絡手段(災害用伝言ダイヤル、WEB上の災害用伝言板※2)や、複数の集合場所を決めておくなど、事前に話し合っておくことを従業員に周知させるが必要があります。
さらに話し合った結果を常に身に付けられるような形にすることで、いざという時にスムーズに行動することができます。(大地震サバイバルテク※3)
発生直後にとるべき行動
行動要領に従って行動する
企業が予め作成しておいた緊急時の行動要領を従業員に携帯させ、それに従い行動させましょう。発災時は、誰でもパニックに陥りやすいものです。行動要領はそのようなときにどう行動すべきか道すじを示してくれ、従業員やその周りの人の命を助けることに繋がります。
また、発災時は様々な理由により通信が輻輳することが予想されます。会社からの指示がなくても各従業員が自主的に判断して適切な行動がとれるように、行動要領は常時携帯させておきましょう。(大地震サバイバルテク※3)
揺れがおさまったら
対策本部を立ち上げる
予め、どのような状況下(例えば震度5以上)で、どこに・何人で集まるのか、基準を設定することが必要です。対策本部の要員は、居住地から会社までの距離や通勤経路上の地形などを基に選定しましょう。たとえ役職者でも、遠方に住んでいたり地域の消防団を務めていて出社不可能であれば、対策本部の要員に含めても意味がありません。また震災による死亡・怪我などにより、欠員が出る可能性を想定し、要員の人数は多めに設定しておくことも必要です。
また、対策本部は本社に限らず安全な場所に設置しましょう。予め決めていた場所が、被災して使用できない場合もあります。複数の代替場所を選定しておきましょう。
従業員の安否確認をする
まずは、予め決めていた手段で安否確認をしましょう。発災後に連絡がとれなかったり、行動要領で定めていたにもかかわらず、出社できないこともあります。予め従業員の居住地を地図に入力した「安否確認マップ」を作成しておきましょう。このマップと地震の状況を比較することで従業員や居住環境の被災状況を予測することができます。さらに、このマップは入力データを充実させれば自社の営業拠点や生産拠点の被災状況、取引先・主要顧客等の被災状況の把握にも活用可能です。
従業員の安否確認ができたら、近隣の従業員の人命救助や安全性を確保するなどの行動に移りましょう。
企業に必要な本当の震災対策・・・未来を見据えて
企業の震災対策において、第一に優先すべきことは事業継続ではなく、今回ご紹介した従業員の生命・身体を守るための対策を立てることです。それを踏まえた上で、BCP(事業継続計画)を策定しましょう。人の命が守れてこそ、BCPが有効に機能するのです。 発災時には警察・消防・自衛隊が、平時のようには駆けつけてはくれません。社会全体が混乱している状態では、まず企業自体が従業員を守る体制を自ら整える必要性があるという認識を持って震災対策に取り組みましょう。
チェックリスト
あなたの会社はきちんと対策がとれていますか?改めて確認してみましょう。
- 全ての自社施設・拠点の耐震性、各種ハザードマップ情報を確認していますか?
- オフィスの家具やOA機器の落下や転倒、移動防止策をとっていますか?
- 「緊急時帰宅・社内待機基準」(勤務時間中発災の行動基準)、「緊急時出社・在宅基準」(勤務時間外発災の行動基準)を定めていますか?
- 震災発生時に策定された計画が実践できるよう、教育・訓練を継続的に行っていますか?
- 従業員がオフィスに留まれるよう最低3日分の備蓄、帰宅者用持出袋、対策本部用の備蓄をしていますか?
- 従業員との連絡手段、緊急連絡先などについて相互確認していますか?
- 従業員に家族の間での安否確認方法や集合場所などの対策を立てておくよう指導していますか?
- 震災直後から復旧期までの行動要領を作成し、従業員およびその家族に携帯させていますか?
- 災害対策本部の設置基準、要員の選定基準を明確に決めていますか?
- 従業員の居住地を地図上で確認できる安否確認マップを作成していますか?
【講評】
8~10点:すばらしい震災対策ができています。さらに完璧な対策ができるよう訓練等を徹底しましょう。
5~7点:このままだと被害が出る可能性があります。早急に震災対策を見直しましょう。
1~4点:大変危険な状態です。従業員の生命・身体に影響を与えるような安全配慮義務違反になりかねませんので、直ちに震災対策に着手しましょう。
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