東京都帰宅困難者対策条例」で、
企業に備蓄の義務化!?

もしも日中、大規模災害が発生したら・・・。東日本大震災から1年以上の時が過ぎた今もなお、帰宅の足を失った人々の行列で首都圏の大通りが溢れ返った混乱の一夜を覚えている人は多いのではないでしょうか。
自然災害は、突然、何の予告もなく襲いかかります。いつまた同じような出来事が起きるかは誰にもわかりません。東京都は震災対策として、平成25年4月から「東京都帰宅困難者対策条例」の施行を決定し、一般企業には罰則のない努力義務として、「一斉帰宅の抑制」と「従業員との連絡手段の確保」が課せられました。

3日間オフィスに滞在するために必要なものは?

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条例制定のニュースを受け、話題になったのが飲料水や食糧の備蓄についてです。備蓄が義務化されたわけではありませんが、帰宅を抑制すれば会社に留まらなければいけません。そのために、3日間を目安とした飲料水や食糧の備蓄が必要になってくるのです。
そしてこの条例、対象はビルのオーナーではなく、入居している各企業に課せられた努力義務なのです。そのため各企業がそれぞれ対策を講じる必要があります。

東京都は、以下のような備蓄の例を示しています。

  • 飲料水:1人当たり1日3リットル、計9リットル
  • 食糧:1人当たり1日3食、計9食
  • 毛布:1人当たり1枚

もちろん、東京都の示した例のとおりに用意できれば一番良いのでしょうが、お金もかかりますし、現実的にここまで用意できている企業は少数派ではないでしょうか。
いくつかの企業の備蓄例を見てみましょう。

  • A社:自分の身は自分で守るが原則。備蓄についても、個人ができる範囲で行ってもらっている。ただし、簡易トイレだけは会社で備蓄している
  • B社:2日分の水とクラッカー等を備蓄。量も全員分ではなく、8割程度の人数を想定している
  • C社:社員全員に帰宅用グッズ(水・トイレ・電池・マスク等)を配布し、さらに会社に留まる人のために、毛布や食料も備蓄している

またある企業では、食事のカロリーを計算しつつ、バラエティーに富んだメニューを検討していました。主食(ごはん、パン)だけでなく、副食(惣菜)や補助食(クラッカー、ビスケットなど)を組み合わせ、成人男性が1日に必要とされている摂取カロリー1,624kcalが補えるよう計算されています。

意外に見落としがちなのが、これらを保管するスペースです。


保管するのに必要なスペースは、100人分で15~17m2(約5坪)

前述のような備蓄を社員全員分するとなると、問題はそれらを保管するスペースのこと。
たとえば、100人分の飲料水と食糧(ごはん・パン・缶詰・クラッカーなど)を3日分用意すると・・・

  • 飲料水:900kg
  • 食糧:約200kg

と、重さは1トン以上にもなり、15~17m2(約5坪)のスペースが必要となります。一般的なオフィスビルでは、1平方メートルあたりの積載能力は300~500kg程度なので、床荷重を考慮すると、それ以上になることも。
実際に執務スペースで考えると9~10名分の机と同じ位の面積が必要となります。しかも、飲料水と食糧以外にもライフラインが停止した時のことを想定しつつ、トイレ用品に毛布、救護グッズなども備蓄するとなれば、もっと広いスペースが必要となってしまうのです。


備えるだけでなく、運用の想定を!

社員が3日間オフィスで生活できる備蓄品を用意したものの、災害時にうまく運用できなければ意味がありません。
スムーズに従業員に行き渡るよう、フロアが複数階に渡る会社は保管場所を分散させるなど、事前に災害時の動きを想定しておくことが緊急時の応対を左右します。
災害が発生したらどのような動き、対応をするのかを予め想定をして準備を進めることが大切です。

未曾有の大災害を受け、制定された東京都帰宅困難者対策条例ですが、備蓄についての具体的な規定はありません。だからこそ、各企業で何が必要か、どのくらいの量が必要か考えなければいけません。もしも、この瞬間、首都圏の交通が麻痺するような直下型地震に見舞われたら・・・。非常事態をシミュレーションした上で、自社にとって必要な対策を想定・実施していくことが、社員の安全と安心を守るために企業に課せられた役割なのではないでしょうか。