もしも入居している
オフィスビルのオーナーが倒産したら・・・?
預けている敷金の行方はどうなるのか??

東京グリーン法律事務所 弁護士 岩田修 先生

いまだ長引く不況。倒産件数は減少傾向にあるとは言うけれど、もしも賃貸人であるオーナーが倒産してしまったら、賃借人であるテナントとの関係は、どうなってしまうのか!?
今回は、(1)預け入れた敷金は返ってくるのか?(2)抵当権が実行されたら、退去しなければならないのか?という賃借人の2大懸念事項にスポットを当てて、不動産に詳しい弁護士、岩田修先生にご教示いただきます。

はじめに

画像 オーナーが倒産したらどうなるか─。
オーナーが倒産した場合の法的手続は、主に2つあります。破産手続と民事再生手続です。前者では債務者の事業活動は停止・解体され、財産はすべて換価されます。一方、後者では債務者は弁済計画に沿って長期的に債務の弁済をしながら、その財産を保持して事業活動を継続することができます。









預け入れた敷金は返ってくるのか?


1-1.破産の場合

オーナーが破産した場合に、預け入れた敷金はどうなってしまうのでしょうか。賃貸人破産の場合には、賃借人は、敷金が返ってくるか分からない一方で、賃料の支払いは続けなければならない立場におかれ、著しく公平を欠いています。
そこで、法は、敷金返還請求権を有する賃借人は、賃料の支払いにあたり、敷金額を限度として、弁済した賃料の「寄託」を請求できることとし(破産法70条後段)、敷金返還請求権の優先的回収を可能にしています。つまり、賃料を支払うときに、「これは敷金用に取っておいてください」と求めることにより、敷金全額分になるまで、支払った賃料を取っておいてもらえるということになります。但し、敷金を返還してもらえるのは、破産手続中に賃貸借契約が終了し明け渡しをすることが必要です。


1-2.民事再生の場合

一方、民事再生の場合には、事業継続の運転資金として、賃貸人に支払われた賃料を使用させる必要があります。そこで、破産のような賃借人からの寄託請求は認められていません。もっとも、賃借人の保護を図る必要もあることから、敷金返還請求権は、民事再生手続開始後に賃料が現実に支払われた場合、賃料6月分の額を上限として共益債権になるとされています(民事再生法92条3項)。したがって、建物を明け渡した場合には、賃借人は、賃料の6月分を上限として敷金の返還を受けることができます。


抵当権が実行されたら、貸室から退去しなければいけないのか?


2-1.抵当権が実行されると、賃借権との関係ではどんな問題が生じるのか

不動産物件については、借入金を担保するため、多くの場合において「抵当権」が設定されています。この抵当権が実行され物件が競売にかけられた場合、仮に抵当権が賃借権より優先されるとなると、賃借人は賃借権を失い、貸室から退去しなければなりません。一方、賃借権が抵当権よりも優先されるとなると、賃借権は存続し、賃借人は貸室から退去せずに済みます。では、賃借権と抵当権はどちらが優先するのでしょう。


2-2.物件が競売される場合

物件が競売にかけられた場合、賃借権と抵当権の優劣は、どちらが早く対抗要件を備えたかによって決定されます。つまり、建物賃借権の対抗要件である「建物の引渡し」と、抵当権の対抗要件である「抵当権設定登記の具備」のいずれが早いかにより、その優劣が決定されることになります。
そして、建物の引渡しが抵当権設定登記の具備に先んじているときは、賃借権が優越するので、賃借人は物件から退去する必要はありません。競売の落札者(買受人)を新たな賃貸人として、賃貸借契約(敷金返還請求権も含む)は引き継がれます。一方、建物の引渡しが抵当権設定登記の具備に後れるときは、賃借権は劣後し、賃借人は物件から退去する必要があります。


2-3.民事再生の場合の取扱い

民事再生手続においては、担保権消滅請求制度という特殊な法制度が整備され(民事再生法148条1項)、一定の場合には抵当権の実行が阻止されますが、原則的には抵当権の実行が認められていますので(民事再生法53条2項)、物件が競売にかけられた場合には、抵当権と賃借権の優劣の問題になります。


2-4.明渡猶予制度

もっとも、競落されたら直ちに退去しなければならないのでは、賃借人(以下「占有者」といいます)に酷なので、落札者(買受人)の代金納付のときから6月間に限って、占有者は明渡しが猶予されます。
なお、この間、占有者は単に明渡しが猶予されるだけで、建物使用の対価を払う必要があります。買受人から、相当の期間を定めて、1ヵ月分以上の支払を催告されたにもかかわらずその期間内に支払わないときは、その経過期間後、明渡猶予は受けられなくなります(民法395条2項)。


2-5.任意売却について

抵当権者による競売ではなく、破産管財人等が抵当権者による競売前に物件を売却することがあります(いわゆる「任意売却」)。この場合には、通常の不動産売買と何ら変わりがなく、賃貸借関係(敷金返還請求権も含む)はそのまま買主に引き継がれます。

※本記事は、倒産時の賃貸借契約関係における法的問題すべてについて説明したものではありません。契約内容・手続の進捗状況・債務の総額等により、権利関係や執り得る手段は異なります。時宜に応じた対応策が重要となりますので、実際にオーナーが倒産した場合には専門家に相談されることをお勧めします。
また、本記事は制度を簡略化して平易に説明したものであり、掲載されている内容については、監修及び弊社は、具体的事案における適用場面においての説明についていかなる責任を負うものではありません。


監修

東京グリーン法律事務所
弁護士 岩田修

【取扱分野】
民事・刑事・消費者問題・破産